『フラーレン・ナノチューブ・グラフェンの科学』

本書の序文

  齋藤 理一郎 著


基本法則から読み解く
『物理学最前線』No. 5
共立出版, 2,000 円 (税抜き), 180 頁
ISBN978-4-320-03525-6
2015.1.24 発行 1刷
2018.4.15 2刷

Last modified: Wed Dec 17 10:50:25 JST 2014
ま え が き

この本は、ナノカーボンという新しい炭素材料を紹介し た本である。ナノカーボンとは、グラフェン、フラーレ ン、カーボンナノチューブという新物質をまとめて呼ぶ 名前であり、いずれも新素材として注目を集めている。

グラフェンは、鉛筆の芯の材料であるグラファイトから 一層の原子層を剥(は)がして作られた、究極に薄いシー ト状の物質である。グラファイトはトランプのカードの ように、原子の層が積み重なってできた層状物質である。 層と層の間の結合は比較的弱いので、カードのように横 に滑らすこともできるし、1枚だけ剥がしたりすることが できる。こうやって取り出したグラフェン上の電子は、 従来の半導体の材料をはるかにしのぐ、驚くべき性質示 したのである。グラフェンの性質を説明する場合には、 従来の固体物理学の教科書の記述を書き直すぐらい特殊 な結果が得られた。これが、世界中の科学者を虜にした。 どんな性質が現れたか、またその仕組みを説明したい。

グラフェンを円筒状または球状に丸めたのが、カーボン ナノチューブとフラーレンである。カーボンナノチュー ブやフラーレンの直径はおよそ1ナノメートル(1nm = 10-9m)、ナノチューブの長さはおおよそ1ミクロ ン(1 μm = 10-6m)で大変小さい。カーボンナノ チューブの特徴として、丸め方を変えるだけで金属 にも半導体にもなるという著しい物理的な性質がある。特にナ ノチューブ構造で半導体が作ることができることは重要 で、従来の半導体であったシリコンにかわる、高温で動 作可能でかつ柔軟な半導体材料ができることが期待され ている。

グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブは同じ 炭素の原子層からできているので共通の知識が多い。猫 とライオンが似ているようなものである。共通のことを 一冊の本で説明するのは、別々に説明するより役に立つ ことであろう。

この本の使命は、ナノカーボンの科学がどんなものであ るかを物理学の研究者が紹介する本であり、必要な知識が詳細に書かれた 教科書ではない。またいろいろな知識が整理されたハン ドブックでもない。本書は異国の地(ナノカーボンの世 界)へ案内する旅のガイドブックである。旅のガイドブッ クには、現地の会話集など少し難しい記述があるが、そ れをマスターする必要はまったくない。どこに何が書い てあったか覚える必要もない。ページをめくって、こん なことがあるのか、と事実に驚いていただければ幸いで ある。科学の一つの分野の話であるが、科学とは何か? 研究とは何か? を若い読者が感じ取っていただければ幸 いである。また、境界領域の新しい研究テーマを探す大 学院生にも、研究分野をひととおり見渡し、ホットなナ ノカーボンの話題を仕入るにも役に立つことであろう。 あらかた知っている中堅の研究者にも気楽に読める本を 目指した。

本書は高校生から大学院生、研究者、一般へと幅広い読者を想定し た、式のあまりない本である。他の分野の人も予備知識な しで理解できるように専門用語の説明を加えた。各章の レベルは★☆のマークで示した。☆の章には大学で使う 数式や知識があることを、あらかじめご容赦いただきたい。数 式は、読者の好きなように読み飛ばしても良いし、章全 体を飛ばして読んでもも構わない。ご自由に楽しんでい ただければ幸いである。

ナノカーボンの分野は、今後も多くの研究者が参入して、 非常に大きな発展が期待できる。どの世界にも共通する ことであるが、小さな糸口が突破口(ブレークスルーと呼 ばれる)になり大きな展開につながる。特に科学の場合、 小さな発見は偶然によって引き起こされることが多い。 偶然を生み出す力、偶然を発見と気づく力こそが『科学 力』といえる。そうなると、若い読者はどうやってその 偶然→発見→幸運を得るかを知っておく必要がある。読 者がこの本を読むことによって偶然の女神、幸福をもた らす隣人を得ることを願っている。

本書の執筆にあたり、著者らが現在進めているプロジェ クトである、文部科学省の科学研究費・新学術領域研究 『原子層科学』のメンバーである皆様、公益財団法人・ 新世代研究所(伊達宗行理事長)ナノカーボン研究会のメ ンバーの皆様、またフラーレン・ナノチューブ・グラフェ ン学会(http://fullerene-jp.org/)の会員の皆様から、 図やコメントを多くいただいた。これなしには本書を完 成することはできなかった。また、株式会社大林組から 宇宙エレベータの図をご提供いただいた。身内ではある が読者の想定年齢である大学2年の娘(杏実)から、難 しい言葉や表現などの指摘をしてもらった。また編集者 の須藤彰三先生や共立出版の島田誠氏からも有益な意見 と励ましをいただいた。ここに深く感謝する。

2014 年 3 月
仙台青葉山にて
齋藤 理一郎

関連するWebページ:

  1. 著者の東北大学の研究室
  2. 文部科学省科学研究費新学術領域研究 原子層科学 Facebook: 原子層科学
  3. 公益財団法人 新世代研究所
  4. フラーレン・ナノチューブ・グラフェン学会

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Last modified: Mon Apr 23 11:07:03 JST 2018