培風館書籍案内 工学系の文章 2005 無断で引用を禁ず。

青葉通りの欅

東北大理学研究科 齋藤 理一郎

仙台駅前から西に伸びる青葉通りは、欅の並木がすばら しい.夏は木陰が気持良く、冬はイルミネーションで幻 想的な夜を彩る。 杜の都を代表する都市景観であり、 一朝一夕にはできない文化だ.

通りの両側から伸びた枝は、道路中央上空で交差する. 実に長い。枝は見た目より、かなり太いようだ.梅雨明 けの枝落しの時は、道をふさいでの大工事.仙台市もこ の枝落しに莫大な予算がかかるので、毎年のように存続 の議論がある。

かつていた電通大のキャンパスでも、限られた予算で何 年に一回か枝落しがあった。切った欅の枝が立派なので、 日曜大工の腕がうずいた.自宅の庭のベンチにするので くれないか、と業者の人に頼んだら『持っていけるのな ら』と薄ら笑い. 週末にノコギリ持参で大学に車で来た までは良かったが、切れた枝の重さが半端ではない.人 間の胴体ぐらいの枝はもちろん 足の太さぐらいの枝で も持ち上がらない。結局、幼児が座る椅子(単なる丸太! )が2個できた次第である.

それ以来、大きな木をみる度に、枝の重さに耐えて多く の枝を伸ばしたのだな、と思う次第である。植木屋さんが バッサリ枝を落としても、初夏になると必ず新しい枝が でる。巨木の生命力は神々しい.

出版業も欅の巨木に似ている。経営の重みに耐え、多く の新書を創出することが生業.売れる本ばかりではなか ろう。しかし確実に、工学、自然科学の良書は増えた. 本が多くあることは、日本の文化である. 一朝一夕にで きたものではない.

最近いろいろな国に行く機会があり、その国の教育にも 自然と目が向く。小さな国での科学の出版は乏しく、そ ういう国の学生は、外国の教科書やその訳書で勉強する. 本の選択肢は限られ、訳文は必ずしも適切ではない。

最先端の科学を創るのは、人間であり教育である。一方 教育のための専門書は高価であり、良書を長い期間出版 物として維持するのは困難を極める。科学予算の一部で、 良書の出版物の維持ができないか.出版会の生命力であ る競争原理を失うことなく、日本の科学基盤を確立する 大局的な布石が必要であると思っている。

電通大の欅で作った子供の椅子は、仙台に移るとき実家 の庭ににおいてきた.喜んで座っていた娘らも大きくな った.今は庭の土を止める縁の木になっている.



齋藤 理一郎
Riichiro Saito, Dept. of Phys. Tohoku Univ. 980-8578
rsaito @ phys.tohoku.ac.jp, http://flex.phys.tohoku.ac.jp