超粒子クラスター懇談会『会報』Vol.2 No. 2。 引用リンクは禁止。

ナノチューブという名の微粒子


Nanotubes as Micro Clusters

齋藤 理一郎(電気通信大学・電子工学科)

ABSTRACT

Carbon Nanotubes are micro clusters whose structure is uniquely defined by a vector. Because of the quantum size effect defined by the geometrical structure such as diameter and chirality of nanotube, the physical properties of carbon nanotube have provided unique and significant phenomena that are only observed in this new isomer of carbon. In this article, we review carbon nanotube from the definition to the future.


目  次


ナノチューブは微粒子

微粒子を研究なさっているかたは、カーボンナノチューブの名前は ご存知であろう。グラファイトの層を円筒状に丸めた炭素の新しい 同素体である。この炭素クラスターの特集のなかでは一番大きな新 しい炭素の仲間であるが、直径が約 1nm (10 億分の 1m) 長さは 1 μm (100 万分の 1m) であるから、無理をいって微粒子の仲間にい れてもらう程、肩身の狭いわけではない。その長さはともかく、直 径は十分に『超微』である。

ナノチューブは、微粒子の生成法によって生まれた素性の明るい新 材料であり、材料としてのマクロな性質と量子効果に代表されるミ クロな性質を兼ねそなえた魅力溢れる物質である。このナノチュー ブに関する初期の研究成果や本が一通り揃い、新しい研究者や技術 者がナノチューブの分野に入りやすくなった。その他の微粒子と肩 を並べるぐらい成熟したと申し上げられる。

応用やさらなる物性の研究を開拓するために、新しい視点と熟練し た手法をもった研究者が増えることが望まれる。本解説の目的は、 本家である微粒子の研究者に逆にナノチューブを紹介し、新たな研 究対象として興味をもって頂くことである。話の詳細は基礎参考文 献に譲ることにし、ナノチューブの基本から将来への展望をお話し たい。

ナノチューブの生成法

ナノチューブの生成法をここで説明するのは、釈迦に説法をするよ うなものだ。ナノチューブの代表的な生成法は微粒子で良く使われ る手法だからである。さらに筆者は理論の人間であり、間違って思 い込んでいる点があるかもしれない。いろいろ御指摘願えれば幸い である。

ナノチューブはカーボンクラスターが限られた条件で成長してでき る。例えば 1μm ぐらい成長するためには、1000 度程度を 1μ秒程度持続することが条件になる。成長のもとになる炭素 クラスターは、直径 1 cm 程度の炭素棒でできた電極の間にアーク を飛ばすアーク法や、炭素棒にレーザを照射して蒸発させるレーザ アブレーションの方法が主に用いられている。いずれも、摂氏 3000 度を越える温度で炭素原子を蒸発させ、もとになるクラスター を生成する。

この炭素クラスターに対し、成長に必要な時間(1μ秒)の間、 一定の温度(例えば 1200 度)に保つために、Ar や He 等の不活性 ガス(圧力500Torr程度)が必要である。温度が1000 度以下になると ナノチューブの成長は止まる。また2000 度を越える温度だと、熱 平衡状態であるグラファイト化が進みナノチューブはできない。不 活性ガスの役目は、炭素クラスターの初期温度を下げ、かつ成長中 においては温度を一定に保つことである。

ナノチューブには、黒鉛(グラファイト)の層が1層だけの円筒であ る単層ナノチューブと、同心円筒状の多層ナノチューブの2種類が ある。現在単層ナノチューブを生成するためには、鉄や希土類など の触媒金属が必要である。触媒を用いないと、数層程度の多層ナノ チューブができる。触媒の種類と反応温度で、得られるナノチュー ブ半径が決まる。実際には反応温度が高い程、半径の大きなナノチュー ブができる。

レーザーアブレーション法では、クラスターを作る部分とチューブ が成長する部分を空間的に分けることができ、成長する反応管を別 にヒータ加熱することができるので、成長反応を制御が容易である。 結果として収率が高い。一方アーク法は、電流値やガス圧の調整で ナノチューブを生成する最適条件を得る。装置の構成が簡単である ということと、比較的多量のナノチューブを作ることができるのが アーク法の利点である。レーザーアブレーション法もアーク法も生 成方法においては一長一短がある。また工業的に連続的に大量に合 成するためには、両者とも有効な方法ではない。

ナノチューブよりもはるかに大きいカーボンファイバーは、炭化水 素を熱分解して得られる。鉄やニッケルの触媒微粒子を用いて、ベ ンゼンを熱分解する方法は、ナノチューブの生成する条件がさらに 限られているが、遠藤らは熱分解カーボンファイバーの手法を応用 して、ナノチューブを作ることに成功した。吉村らは水晶の表面に ニッケルの微粒子で碁盤の目のようなパターンを描き、そこに炭化 水素を CVD (Chemical Vapor Deposition)の方法で、触媒のある場 所だけにナノチューブの『ロープ』を成長させてみせた。ここでロー プ(rope)とは、単層ナノチューブが数十本束になった状態である。

触媒によってナノチューブがどう成長するか、 いろいろなモデル が提唱されている。しかし、反応時間が実時間で観測するのには非 常に短いので、決定的な事実を得るのは困難であり、未解決な問題 として残っている。1000 度程度での成長の機構を直接みることが できれば良いが、名案がないものであろうか。



ナノチューブの精製法

生成した試料からナノチューブだけを取り出すのは、フラーレンに 比べて難しい。ナノチューブを溶かす溶媒がないからだ。したがっ て分離精製は、特殊な技術であり、いろいろ提案がある。現在行わ れているナノチューブの精製においては、(1) 有機溶媒でフラーレ ンの除去、(2) 超音波で水中(または有機溶媒中)においてチューブ の分散、(3) 空気中での加熱処理などがある。とくに (3) の加熱 処理とは、燃やすことである。煤(すす) と呼ばれる欠陥(五員環) の多い炭素微粒子は先に酸化される(CO2になる)。燃やすことで ナノチューブも一部燃えてしまうが相対的に多く残る。最後に触媒 となった金属を酸で除去し、精製が完了する。

精製処理を行った後の単層ナノチューブでも、単層ナノチューブ数 十本が三角格子状に束ねられたロープ構造をとる。チューブ間の相 互作用は、黒鉛の層間の相互作用と同じファンデルワールス力であ り弱い。しかしロープは、朝顔のつる同士が絡み合うように、複雑 に絡みあっている(高速道路のジャンクション構造とも呼ばれてい る)ので、単独の単層チューブを取り出すのは技術が必要である。 これに対し、多層チューブは、溶液中に分散させ単独で取り出すこ とができる。近年の研究の進展によって、ナノチューブを高い純度 で精製することができるようになった。

手っ取り早く仕事をするのであれば、ナノチューブを購入すること もできる。ケンタッキー大の Eklund は、大学のあるケンタッキー の州都 Lexington に自らナノチューブの会社 http://www.carbolex.com を作った。アメリカの教授は現職のま ま、会社の社長になれる。会社の名前は Carbon + Lexington = CarboLex である。



単層ナノチューブの構造と分類

材料としてナノチューブの作成・精製法を紹介した。次にナノチュー ブの物性を紹介する。歴史的には、理論が予想した物性が先で、理 論の予想が実験の目標になってきた。その理論の予想とは何か? 少 しまわりくどいかも知れないが、最初から順をおってお話しよう。。

単層ナノチューブは、グラファイト層一層(これをグラフィンと呼 ぶ)を丸めて作る。六方格子(蜂の巣の構造、図1)の模様の紙を御用 意頂きたい。どんな紙でも模様を気にしなければ、どんな方向にで も丸めることができる。ここで紙を重ねた部分の模様がきれいにそ ろうように丸めることができるかは、それほど自明ではない。試し て見るとわかるが、実は六方模様がぴったり重なるように丸める方 向が無数にあるのだ。

一般に格子模様が重なる条件とは、ナノチューブの『赤道』が格子 に対して周期的、つまり 2 つの格子点 O と A を結ぶ格子ベクト ル OA になることである(図1)。

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図1: ナノチューブの構造。O と A、B と B' を結ぶと(4,2) のナノチューブ(本文参照)ができる。


このとき O と A から それぞれ OA に垂直に引いた線 OB, AB' は平行である。等価な格子点からで た平行線 OB と AB' は六方格子の模様と同じように交わる。した がって OB と AB' で切ってつなげれば、模様がきれいに重なって ナノチューブができる。

チューブの赤道になるベクトル OA は 2 つの基本格子ベクトル a1, a2を用いて、n a1 + m a2 = (n,m) のように書くことができる。ひとつの単層ナノチュー ブの構造は、この 2 つの整数 n, m をもちいて決定できる。構 造に関する全ての数値は、カイラルベクトルの 2つの整数の関数と して書くことが可能だ。その詳細は、話が長くなるので参考文献に 譲る。我々はこの赤道を示すベクトルを、カイラルベクトルと呼ん だ。

あるカイラルベクトルを定めると、六方格子の六員環の向きは、チュー ブの軸に対し一定の角度をとり、螺旋構造をとる(図2)。一般に螺 旋構造は、鏡の対称性を持たない。このような対称性を軸性キラル (カイラル)な対称性を持つという。螺旋度が大きいからといって、 六角形の構造に歪みの生じることはないのは、紙を問題なく丸める ことができたことから理解できよう。実際の計算によっても、螺旋 度は歪みとは関係がないことがわかっている。(歪みは半径の大き さにのみ依存する。)

無数あるナノチューブの中で、鏡映対称性を持っているものは 2 種類ある。カイラルベクトルで(n,n)の形(n=m)を持つもの (アームチェア型) と (n,0) の形(m=0)を持つ (ジグザグ型) である。これらは ナノチューブを切ったときの端の形状に由来し ている(図2)。それ以外のナノチューブ(n,m) , (n≠m) をカ イラル型と呼ぶ。

レーザアブレーションで最初に作られたナノチューブを電子線回折 で構造を電子線回折で解析してみると、(10,10) のアームチェア型 の ナノチューブが多く得られた。次にお話するが、(10,10)のアー ムチェア型は全て金属であることがわかっている。その後、電子線 回折、ラマン効果、走査トンネル顕微鏡等の研究では多くのカイラ ルベクトルも存在することがわかっている。

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図2: ナノチューブの種類。(a)アームチェア型, (5,5) (b) ジグザ グ型, (9,0) (c) カイラル型 (10,5)。


ナノチューブは金属か半導体

ナノチューブの構造は局所的には六方格子なので、その電子構造は 基本的にもとのグラフィンの電子構造と同じである。異る点は、ナ ノチューブの赤道方向の電子の波数が周期境界条件によって離散的 な値をとることである。一方チューブの軸方向には連続的な波数を とるので、ナノチューブの電子構造は 1 次元のエネルギーバンド の集まりになる。この電子構造は、2 次元のグラファイトの電子状 態をチューブの軸に相当する k の方向に沿ってスライス(平行に 輪切り)することに対応する。スライスした断面が 1 次元のバンド 構造を与える。

ところが、もとのグラフィンは価電子帯と伝導帯がブリルアン領域 の 点 (K 点と呼ばれている)で接する特殊な電子状態をもち、エネ ルギーギャップが0の半導体である(図3)。ナノチューブの場合こ の K 点は、(1) スライスした断面上に存在するか、または (2) 隣 接する2つ断面の3等分点のところに存在するか、いずれかである。 前者はフェルミエネルギーで有限の状態密度を持ち金属になり、 後者は有限のエネルギーギャップを持つ半導体になる。


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図3: グラフィンのエネルギー分散関係。これをスライスすると ナノチューブのエネルギーバンドになる。


金属、半導体のどちらになるかは、 n-m の値から わかる。結果 だけ紹介すれば、 n-m が 3 の倍数なら金属で、3 の倍数でなけ れば半導体である。例えば (9,0), や (7,4) は金属だが、 (10,0) や (10,9) は半導体である。 とくに (10,10) のような n=m の アームチェア型は常に金属になる。このように、円筒形がもたらす 量子効果によって、金属にも半導体にもなることがカーボンナノチュー ブの大きな特徴である。

この量子効果は、金属が全体の構造の 1/3 だけ現れるので、『1/3 則』と呼んでいる。この効果によって、ナノメートルの大きさの領 域で金属半導体デバイスを作ることが原理的に可能だ。従来の半導 体の不純物による pn 接合では、不純物のまわりに不純物準位を作 るための空間が必要であった。Si 半導体の世界では微細加工のた ゆまぬ進歩があるが、半導体の微細構造の下限は 100 nm であろう と考えられている。ナノチューブの半径はこの 100 分の 1であり、 半導体の大きさの下限に対するブレークスルーを可能にする。

金属と半導体のナノチューブの組合せでいろいろなデバイスを作る ことができる。例えば、金属と半導体のチューブからなる多層チュー ブを作れば、同芯円筒のキャパシター(メモリー)ができる。金属と 半導体を接合すれば、炭素だけからなる完全なショットキー接合 (金属と半導体の接合)が可能だ。不純物を利用しないので、高温で も安定に存在することが可能であり、何よりも小さいことを利用し て、集積度を飛躍的(Siの約 106倍)に高めることが期待できる。

半導体型のナノチューブはエネルギーギャップがナノチューブの半 径が大きくなると、半径に反比例して小さくなる。すなわち、ナノ チューブのエネルギーギャップの大きさは、約1eV から 0 eV まで 自由に変えることができる。これも量子効果であり、STS (走査ト ンネル分光)の実験によって検証されている。太陽電池への応用な どが考えられる。



ナノチューブの量子伝導への挑戦

金属か半導体になるだけでも、非常に興味深い性質を持っている。 しかし、その量子効果にはまだまだ驚くべき事実が隠されていた。

ナノチューブは、炭素原子の六方格子でできている。この格子長は 他の原子の作る格子長より小さく、不純物が置換して入りにくい。 したがって、その電気伝導も不純物によって散乱されない電気伝導 が起こる。黒鉛の伝導度(移動度)の高い理由は、その結晶性の良さ であり、また以下に述べるような特異な電子状態のせいである。

全く何にも散乱されない電気伝導を、弾道的な伝導(バリスティッ ク伝導)と呼ぶ。この場合電気伝導度は量子化され、1 つの電気を 流す経路(チャネルと呼ぶ)あたり、2e2/h = 12.9 Ωに なることが知られている。Si の高度な精製技術では不純物を極限 にまで少なくすることができ、Si では 1 μm の大きさでも量子伝 導が観測されている。

このような量子輸送効果を考えた半導体物理が、マクロスコピック (巨視的)とミクロスコッピック(微視的)の中間の物理であるメゾス コピック系の物理として精力的に研究されている。その主要な目標 の一つが、単電子トランジスター(電子 1個で動作するトランジス ター)である。ナノチューブの目指すものは、単電子トランジスター をナノメータ領域で実現することであり、最近の実験は精力的にこ の問題に取り組んでいる。

このグラフィンの量子輸送の散乱に関して調べてみると、驚くべき ことに、不純物があっても散乱が抑制される効果があることがわかっ た。その抑制とは、電子の2つの波動関数の位相による干渉効果で ある。この効果は、騒音を逆位相の音を発生させ打ち消すような効 果と基本的に同じである。逆位相になるメカニズムは、量子力学で の波動関数の特殊な位相(ベリーの位相)と関係していることもわかっ て来た。新しい究極の科学と技術が展開されると、基本的な物理の 現象が見られることは、過去に多くの例があるが、この干渉効果の 検証は、基礎物理学への理解にもつながっている。



素材としての魅力

このようにナノチューブは、『量子的な魅力』をもって炭素の新し く輝かしい仲間になった。魅力はそれだけではない。特に比較的近 い将来に可能な応用を考えるのならば、『素材としての魅力』を語 ることが必要であろう。最後に、ナノチューブの未来への提案を紹 介する。

ナノチューブは中空円筒である。中は真空である。1本1本の中空領 域もまた小さいものであるが、ナノチューブが沢山集まれば、理想 的な多孔質の物質である。究極の活性炭と考えられる。特に 21 世 紀の新しい自動車の燃料電池として、ナノチューブが水素吸蔵材料 に応用する提案がある。非公式の発表では、ナノチューブの重量の 15% もの水素を吸蔵できるものもある。もしこれが本当であれば、 革命的な値である。

またナノチューブとナノチューブの間にリチウムをいれてバッテリー をつくる応用研究も進められている。グラファイトでは既に応用さ れているが、ナノチューブの形状から高い性能が期待されている。 いずれの場合でも、素材が大量にできなければならないが、その優 れた性能が実証されれば生成にもはずみがつくであろう。

単層ナノチューブは、全ての原子が表面にある。表面だけでなく 『裏面』もあり、その表面積は 3000m2/g ともいわれている。 この巨大な表面積を利用して、コンデンサーを作る計画がある。コ ンデンサーは表面積が多ければ良い。すでに活性カーボンファイバー を利用したコンデンサーは指先程度で F 単位の容量を実現した。 電気消費量の少ない微小デバイスであれば、この程度の電気容量は 電池として使うことが可能だ。また瞬間的な大電流を作るのには 大変有効な技術になる。

ナノチューブの先端は、尖っている。従来の電界研磨した STM の 針でも 先は、20nm ぐらいはある。これに対しナノチューブの先は、 フラーレン分子を半分に割った半球がキャップとしてついているの で直径 1 nm しかない。この針の先に電界をかけたら、非常に大き な電界効果が期待できる。実際これを利用して、伊勢電子工業はブ ラウン管の冷陰極管の試作に成功した。数百ボルトの電圧でヒータ 無しで、蛍光管を光らせるに十分な電流(mA 程度)をだすことがで きる。このような現象は、ダイヤモンド薄膜でも報告され研究され ているが、良導体であるナノチューブの方が多く電気を流すことが できる点で有利である。使わない時の TV の ヒータのような電力 のことを、待機電力といい、待機電力が家庭の全電気消費量の 10% にもなることが問題になっている。ヒータ不要のナノチュー ブの電子銃は、環境にやさしい素材として注目される。

ナノチューブは、軽く、軟らかく、切れない。格子の欠陥がないナ ノチューブは、カーボンファイバー以上の性質をもつと考えられて いる。その引っ張り強度は、カーボンファイバーの少なくても数倍 はあるであろうと考えられている。同じ断面積の鋼鉄の数十倍であ る。同じ重さで比較したら、もっと差があろう。我々は、考え得る 最も細い糸を手にしたのである。

ミクロな繊維はミクロな繊維産業を生み出す。繊維が数桁も細いな らば、そこから作られるものは従来の繊維というイメージから全く 異るものができるに違いない。例えば布として情報を織り込んだら、 その情報の集積度はどんなマイクロフィルムもかなわないことであ ろう。1nm の糸でつくる、布は1cm2あたり、10TByte (=1013バイト)の容量が期待できる。

ナノチューブは酸や高温にも強い。少なくても 1000 度の温度には 十分耐えられる。集積回路の素子としての魅力の他に、繊維の強度 がこの温度で耐えられるのは、炭素材料の最大の強みである。また 危険な金属を使わないので、燃やしてしまえばただの CO2 になるのも、環境上好ましい。

このように書くと、なんと夢があることであろうと思われるに違い ない。そのとおりではあるが、少なくても最期の章の話は、炭素材 料に手を染めた人は、必ず耳にする話である。炭素材料の夢はこの ように大きいのであるが、実現が難しいのもまた偽りざる事実であ る。炭素材料は高温でも溶けないこと、また加工が難しいことが常 に付きまとってきた。しかしナノチューブは、単独の形として、もっ とも扱いやすい形をしている。将来の微細加工技術の進歩の伴って、 炭素材料の困難を克服し、人類の素晴らしいパートナーとしてナノ チューブが活躍する日がそれほど遠くないと確信している。

本稿に関する研究の一部は、文部省科学研究費『炭素クラスター』、 『カーボンアロイ』の援助による。


参考文献: 以下に代表的な本のみ紹介する。
  1. ``Physical Properties of Carbon Nanotube'', R. Saito, G. Dresselhaus and M. S. Dresselhaus, Imperial College Press (1998).
  2. ``カーボンナノチューブの基礎'' 齋藤 弥八、坂東 俊治 著、 コロナ社 (1998).
  3. ``Science of Fullerenes and Carbon Nanotubes'', M. S. Dresselhaus, G. Dresselhaus and P. C. Eklund, Academic Press, (1995).
  4. ``Carbon Nanotubes : Preparation and Properties'', eds T. W. Ebbesen, CRC Press (1997).
  5. ``Special Issue of Carbon Nanotubes'', Carbon 33, No. 7 (1995).



1998.12.1 作製

齋藤 理一郎
Riichiro Saito, Dept. of Elec. Eng. Univ. of Elec. Commun., Tokyo 182-8585,
rsaito@ee.uec.ac.jp, http://flex.ee.uec.ac.jp