電気通信大学学園だより No. 173 (1999) pp.8-10. 無断で引用を禁ず。

白い水仙の花−Aコース新入生合宿研修の記録−

電子工学科 齋藤 理一郎 (rsaito@ee.uec.ac.jp)

連休明けの水曜日といえば、どこの行楽地も一息ついた静けさ がある。電気通信大学の1999年度の新入生714名が訪れた白 樺湖も、無人のリフトがカラカラと音を立て、湖畔の黄色い水仙の 群落とタンポポの花だけが風にゆれる研修にふさわしい空間であっ た。

7学科20台のバスは、各学科の企画を消化し宿泊地の白樺湖 に夕方までに集結した。1,500mの高原の、初夏にしては日差 しが強く、雲の無い青空には霞がかかり、「暑さ」すら感じさせる ような絶好の日和の2日間となった。高速のバスからみた南アルプ スや八ヶ岳も山頂の雪が残るのが良く見え、山登りをしない私にとっ ては険しい雄峰に見えた。そんな山の表情とは裏腹に、バスの中で は自己紹介、研修ビデオ、さらにはカラオケまでくりだして、楽し く快適に走行できた。

新入生の合宿研修は、事務の学生部が中心となって企画してい る他の大学に類を見ない組織的な行事である。お互いの顔がわかり 始めた新入生同士の距離を近づける機会として、活字になりにくい 学生生活の実状を聞く機会として、授業ではみられない大学教官の 一面に触れる機会として、さらには新入生の大学に対する新鮮な感 想を聞く機会として、研修旅行は参加者が想像するより遙かに多く の目的を伴って行われる。多くの目的を総合的に達成する1泊2日 の研修旅行は、時期を得た合理的なものである。下宿を始めた学生 にとっては「腹いっぱいのメシ」を得ることに関しても悪くない機 会のはずである。

今回私は初めて新入生の研修旅行に参加した。実は昨年E(電 子工学)科は潮干狩りに出かけたそうで、昨年研修旅行から戻って きた学生が電子掲示板に、おいしそうなアサリを食べた話をたくさ ん書くものだから、ノコノコ参加した次第である。ところが今年は 「山に行く」ということで、潮干狩りの夢はもろくも崩れてしまっ た。それは半分冗談であるが、初参加の私に筆が回ってきたという ことは、例年の比較をせずに新鮮な感想を書けということだと思わ れるので、自由に感想を書くことにする。

今年のE科の企画は、学生の言葉からも少し漏れていたが、若 干企画倒れの感がある。間欠泉が2,3回吹き出て終わってしまっ たからだ。地熱によって、定間隔にまた不定期に湯が噴き上がるの が間欠泉であるが、間欠泉は間が持たないイベントである。間欠泉 を待っている間の、諏訪湖への石投げの方が盛り上がっていた。間 欠泉センターにある間欠泉の吹き出し口が鉄管なのも、どうもいた だけなかった。自然を売り物にするのなら、ワイルドに見せるべき であろう。でも若干の申し開きをすれば間欠泉の出方を見る限り、 間欠泉は本物だ。昔イエローストーン国立公園でみた多くのガイザー (間欠泉)と全く同じ出方だ。バスガイドさんによると高さは日本 一だそうなので、一見の価値はあったと評価したい。

企画として初日の工場見学や運動は研修の花としては有効であ ろう。しかし、それが研修の主目的ではない。研修の成果として、 一方的に見たり聞いたりするだけでは物足りない。意見を交換する 事が重要であろう。私は石投げをして思ったのだが、企画として誰 でもできる継続した軽い作業が適当だと思う。人間の心理として会 話がどうしても必要になるからだ。来年同じ場所であれば、私は白 樺湖1週の散歩(walking discussion)を提案したい。自由時間に万 歩計をつけ試してみたのだが、会話をしながら約7000歩(50 分)の行程はなかなか健康的である。学生にとっては単調であろう が、狭い部屋でグループに分け人の声が十分通らない討議より、青 空の下で歩きながら話すの方が快適で、また寝るわけにもいかない 利点もある。

今回いろいろな機会に個別にお話できた学生は、実に多くの疑 問をぶつけてくれた。それは最初から多くの疑問を持っているわけ ではなく、一つの疑問が多くの疑問を派生させるようであった。疑 問が、本当の声になる疑問になるには会話が必要である。それが全 体のミーティングだけでは質問は十分に引き出せない理由ではない か。提案だが、事前に電子基礎セミナー等の授業でグループ討議を させ、教官や事務官に対する質問を旅行前にレポートとして提出し てはどうであろうか?バスの中で適当に話題をピックアップして答 えれば、より多くの疑問を引き出すことができよう。ビデオ鑑賞の ような受動的な情報より、フィードバック効果が期待できる。また 会話をするという意味では、昼食ぐらいは教職員は学生と同じテー ブルについたほうが有効であろう。事務官も含め積極的にランダム に配置してはどうか(教官席を作らなければ良いと思う)。

今回の中で印象に残ったのは、学生の積極的な態度である。バ スの中の自己紹介の司会も自発的なものであり、カラオケの提案進 行も学生のものである。大変良い印象を持った。そこで学生にマイ クを持たせ、どれくらいミーティングを組織できるか試してみたい 気がした。もちろん非公式には自主的に夜遅くまで話を弾ませてい るようではあるが、やはり表向きに実行してみたい。また今年学生 部の方が、受付や点呼の作業を学生に任せたのは大変良い企画であ ると思う。来年は、さらに先輩有志を参加させてみたい処である。

話が少し脱線するが、大学が力強く運営されていくには、事務 の組織力が必要である。教育研究等のサポートとして常にご活躍い ただいているが、こらからは事務官の方も少し業務を離れ、個人と して教官や学生と直接会話する事が一層必要になってくると思われ る。今回特に学生部のみならず、そのほかの部や課の事務官の方が 研修旅行にご参加下さり、教職員の懇親会で話をお聞きすることが できたのは大変良い方向であると思う。F科では、事務官も交え皆 さんでスポーツをなさったそうだ。来年はもっと積極的に、事務官 と学生のミーティングも行えれば得る物が大きいと思われる。研修 旅行のような総合的なイベントは、より多くの性格と目的を多面的 に組み込むことができるのが最大の利点であり、有効に活用したい ところだ。

参加した教官の中で感想の声が多かったのは、女子学生の増加 である。共学から来た新入生は決してそうは思わないであろうが、 電気通信大学の81年の歴史の中で、新入生全体の女子学生の割合 が、10.1%という2桁の大台にのった事は特筆すべきことである。 米国のマサチューセッツ工科大学なども毎年1%づつ増加し、最近 は40%以上になっているそうであり、理科系大学の一般的傾向で はある。研修のホテルでエレベータを一人待っていると、上から降 りてきたエレベータが全員女子学生であり、思わず『入ってかまい ませんか?』と聞いた場面に遭遇したのが象徴的であった。体育の 授業など、大学での教育環境をバランス良く整備する事が急務であ ると感じさせられた。

散歩した白樺湖の湖畔は、なぜかほとんどすべての水仙が黄水 仙の群落であった。そのなかに1箇所だけ白い水仙の群落があるの を見つけた。他に湖で咲いていたタンポポ、山吹も全て黄色の花の 中、白い水仙は光輝いているようであった。次に訪れるときには、 より大きな美しい群落に成長しているのことであろう。最後に旅行 を企画し無事に実行して下さった関係者の皆様、また参加し有意義 な意見を話してくれた学生に心から感謝する。


(1999.5.14 作製)
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