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グラファイト微結晶での F の吸着機構

次にアクセプター型の不純物である F をドープした 系の電子状態の計算を Mopac93 と Gaussian 94 (非 経験的分子軌道計算ライブラリ) を用いて行なった。 我々の興味は、榎教授グループによる F ドープグラファ イトが大きなスピン磁化率を生じる実験事実にある。 ドナー型の黒鉛層間化合物が電荷移動に伴ってグラファ イトにキャリヤーが移動するだけではこのようなスピ ン磁化率が生じることは考えられない。クラスター上 に生じるスピン密度の計算は、Hartree Fock 計算の 段階ではまだ信頼のおける結果とはいえない。なぜな ら up spin と down spin の間の相関効果を正確に取 り入れているとは言えないからである。従って現在こ の研究は信頼おける結果を出す為の基礎的な計算を進 行中であり、本報告以外には未発表である。研究を続 けて成果としたい。

計算では、炭素原子数 24 個のクラスターに F を付けて構造最適 化をおこなった。アクセプター型の不純物である F をドープした 系の最適構造は、ドナー型の Li 黒鉛層間化合物と異なる結果が 得られた(図 2)。ドナー型の黒鉛層間化合物の場合には、6 員環の 中心の上方にアルカリ金属が存在するのであるが、F の 場合には 炭素原子の真上に存在し、炭素原子は sp3 混成軌道の成分を持 つ。このために、シグマ骨格が非常に大きな変形を受ける(図2)。 これに対応してグラファイトの 樶蚩 電子系が大きな影響を受け る。特に フェルミエネルギー付近の電子は 局在することが見出さ れた。現在この局在長や、電荷移動の様子をクラスターサイズや、 結合する位置を変化させ系統的に調べ、不対スピンのクラスターお よびナノチューブ上での性質を調べているところである。

図2. C24F の最適構造。骨格の変形が見える。

F 原子は、グラファイト微結晶端につく場合には、水素がない場合 には、ダングリングボンドを終端する sp2 構造をとり、水素終 端されているグラファイト微結晶端につく場合には、端の炭素原子 が sp3 構造をとる。sp3 構造をとった場合でも端の炭素原 子はグラファイト平面からずれるような変形は取らないことがわかっ た。グラファイト から F に 電荷が移るがこの大きさは、最適化 構造に非常に依存して、-0.3 から -0.6 までばらついた値をとる。 F はこれで偶数電子になりスピンがなくなり、グラファイト上に スピン密度が発生する。スピン密度の大きさに関しては、現在の計 算では定量的に議論できないが、少なくても炭素原子 1 個あたり 0.2 以下であろうと考えられ、広くスピン密度が分布していると考 えられる。F を 2 個以上つけていった場合、一番安定な構造は、2 つの F が 最近接の炭素原子につく場合である。最近接の炭素原子 につく場合 F も最近接になり F 間の共有結合の得が考えられる。



Riichiro Saito
1998-12-14