「基礎固体物性」(朝倉) に関する質問と答え

  齋藤 理一郎 著

現代物理学『基礎シリーズ』6
朝倉書店, 3,150 円 (税込み), 174 頁
ISBN978-4-254-13776-7
2009.2.25 発行

この本に関して、寄せられた質問 とその答えを掲載します。時間の都合上対応が遅れる場合がありますが、 御勘弁下さい。

Last modified: Mon May 21 12:44:06 JST 2012

Q. 物性物理学Iを受講している物理学科3年の学生です。演習問題[1-7]正方晶系に面心立方構造がないことはわかったが、これでは立方晶系にも面心立方格子が存在できないのではないか。

A. ”これでは”が何をさすかが分からないので、答えようがないですが、立方晶系では面心立方格子が存在します。

Q. 演習問題[1-10]で[1-1]の単位胞を用いた場合全ての面指数(h',k',l')がピークを持つことになるが、このときもう1つの単位胞で考えた場合の(h,k,l)との対応がわからない。

A. それぞれの逆格子ベクトルの大きさが分かっていれば、それの面指数倍なので、 対応関係が得られます。

Q. タイトバインディング波動関数が(2.3),(2.4)のように表せるのはなぜか。また原子のj番目の波動関数とはなにか。

A. 脚注19)で示したように、この関数系であればBlochの定理を満たします。 固体の波動関数は、Blochの定理を満たす必要があるからです。これがShrodinger方程式の解 であるためには係数Ci を決定しないといけません。

Q. トランスファー積分とは何か。(演習問題[2-11]のH_{AB}の求め方)

A. ハミルトニアン行列要素で出てくる波動関数とハミルトニアンの積の積分です。 (2,15) の < ... > の部分です。

Q. 2つの壁に固定された3個の原子の格子振動を考えたとき 解の3つの固有振動はそれぞれ何フォノンか。(A or O)

A. 一番エネルギーの低いモードは LA フォノンです。 それ以外は LO フォノンであるといえます。 ただし、これは一つのフォノン分散関係上のモードなので、 有限の波数のモードをどう呼ぶかに関しては、注意が 必要です。隣り合う原子が逆方向に振動する場合は LO モードですが、この場合の真ん中の振動数のモードの 場合、中央の原子は振動しませんので LA と LO の 中間的な振る舞いになります。

Q: 化学4年のものです。『基礎固体物性』p48 の 「半金属」の説明について記述が誤っていると思うので 報告します。教科書では,「荷電子帯に電子がすべて占 有する前に,伝導体にも電子が占有される」物質を「半 金属」呼んでいるように読み取れます。しかし,シュラ イバー『無機化学』第4版p157では,「完全に占有され たバンドと空のバンドとが,状態密度0の点で接してい る」「黒鉛」などの物質を「半金属(semimetal)」と呼 んでいます。また,同p10では,「ケイ素,ゲルマニウ ム,ヒ素,テルル」など周期表で金属と非金属の中間に 属し,「金属あるいは非金属として分類することが難し い性質をもつ元素」のことを「半金属(semimetal, metalloid)」と呼んでいます。インターネットでも少し 調べてみましたが,『基礎固体物性』で言っている「半 金属」の定義は見つかりませんでした。

「半金属」の定義は、それぞれであるようですが、 「完全に占有されたバンドと空のバンドとが,状態密度 0の点で接している」ことが半金属と呼ぶのは正しくな いと思います。「黒鉛」の場合には、実はc 軸方向にエ ネルギー分散関係があって、電子とホールが同数存在し、 ともに電流に寄与します。Fermi エネルギーでの状態密 度は0ではありません。一方原子層が一層のグラフェン は、「状態密度0の点で接している」状況になっていま す。これはゼロギャップ半導体と呼ぶべきでしょうが、 電気伝導度の計算によると特異的に状態密度が0 のとこ ろにも有限の値で存在します。したがって輸送特性から みれば金属であると見なすことができます。「ケイ素, ゲルマニウム,ヒ素,テルル」は、半導体に属します。 「黒鉛、ビスマス、アンチモン」などが代表的な半金属 です。電子とホールが同数存在することで、物性が他と 異る性質を占めます。アルカリ土類金属はFermi 面での 状態密度は十分大きいですが、電子とホールが共存する ためにやはり、物性から見れば半金属ということができ ると思います。 (2010.6.1)
Q: 東北大学の3年のDと申します。図1.4のX線スペクトルで (2,2,2)構造因子の式(1,15)の4p+2の場合に なり、シグナルがあるのは、おかしいのではないのでしょうか? (2010.4.25)

A: よくグラフを読み取りましたですね。 グラフから異常を指摘できる人は、良い物理の研究者になれます。 御指摘のとおり(2,2,2)の信号は構造因子の式(1,15)の4p+2の場合に なるので、ありません。この図では、ないことを示したつもり です(本にはこのような隠し味をいくつか忍ばせています。)。 実際に横軸の角度を計算してみると、(3,1,1) と(2,2,2) は、それぞれ56.2, 58.2 度で2 度ありますから、グラフ上でも 十分区別できますね。このグラフのもとの実験データは、0.01度 刻みにデータが測定されています。誤解が無いようにグラフの 横軸の目盛は、外側を向いているのに気づきましたか? 弱いバックグラウンドの信号にも何か構造があるようですね? (2010.5.15)

Q: 大阪市立大学工学部応用物理学科3回生のBと申しま す。齋藤先生の「基礎固体物性」はとてもわかりやすく、現在愛読しておりま す。本を読んでいて、気になったことがあったので、少し聞きたいと思いま す。P.14では最後から6行目に「コヒーレントなX線を開発すべく研究が進めら れている。」とあり、その後の文脈からいかにもまだコヒーレントなX線が開 発されていないように解釈できます。私はそれを疑問に思い、レーザーを専門 とする教授に聞いたところ、実際にはコヒーレントなX線は開発されていると のことです。空間的なコヒーレンスを持つX線や時間的なコヒーレンスをもつX 線は開発されていて、「コヒーレントなX線」をどう定義するかによって解釈 が異なるとのことです。つまり完全に時間的かつ空間的なコヒーレントなX線 はできてないにしても、コヒーレンスをもつX線はできているということで す。ですので、齋藤先生にこの点を、つまり本ではどのように伝えようとした かをはっきりさせてほしいと思います。まだ未熟なもので的外れな質問かもし れませんが、どうぞよろしくお願いします。(2009.5.22)

A: いかなる電磁波もある程度の大きさの位相を定義できる空間と時間があります。 そうでないと 波の性質を見ることはできません。たとえば、光の干渉の実験を通常のレーザー でない光でも 二重スリットでできると思います。これは、二重スリットの大きさが十分小さけ れば、フォトン 1個のコヒーレンス長のほうが長いから干渉が起こるわけです。 電子を波状に加速することによって、X線のコヒーレンスを作るアンジュレー ターを用いて X線のレーザーを作る研究がすすめられています。ですが、私の知る限り、フー リエ変換を 用いたX線構造解析ができるぐらいのコヒーレンス長を実現した例はないと思い ます。 X線は、エネルギーが高いので非弾性散乱(コンプトン散乱)などが起き、構造 解析に使える ものを作るにはまだ時間がかかると思います。質問した大学の先生に、実現でき ている X線レーザーのコヒーレンス長または時間を聞いてみてください。構造解析に使 えるには どれぐらいの大きさがあったらよいでしょうか?考えてみてください。(2009.5.22)

R: 返信ありがとうございます。昨日、大学の先生 に問い合わせたところ、時間的コヒーレンスが十分なX 線で構造解析に応用したことはないらしく、空間的に十 分なコヒーレンスをもつX線はあるとのことでした。(2009.5.27)

A: 追記ですが、2010.3 に、X線レーザーの開発が成功したと いう話が飛込んできました。構造解析の歴史が変わるかもしれません ですね? (2010.4.15)

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