「基礎固体物性」(齋藤)の序文から

  齋藤 理一郎 著

現代物理学『基礎シリーズ』6
朝倉書店, 3,150 円 (税込み), 174 頁
ISBN978-4-254-13776-7
2009.2.25 発行

ま え が き

この本は、固体物性の基礎を学ぶ教科書である。学部学 生を対象とし、量子力学や統計力学を学んだあとに、固体 の基礎的なことを半期で学ぶ授業に照準をあわせている。

固体物性とは、固体の物質の性質を理解する研究分野で ある。結晶の構造、電気的性質、光学的性質、磁気的性 質などを数式を用いて定量的に理解することが本書の目 的である。この研究の大きな成果として、半導体や、レー ザーの応用がある。これらはすべて日常生活と深く関わっ ている。

日常生活に関わっているとはいえ、科学として理解する のは容易ではない。例えば、出てくる数値の大きさは日 常の感覚ではない。この教科書を通じてまず習得して欲 しいのは『固体物性の常識的な数字と単位』である。ど んなに理論を深く理解しても、数字が全く見当違いの値 や単位を使って平気なのは、著者として困る。読者が失 笑のまとになれば教科書として失格である。物理量に 対する大きさ、単位を常に意識して読まれるように意識 した。

次に重要なのは『どうやって実験するか』である。物理 はすべて実験と理論があり、実験の検証が必須である。 どういう手法があり、その手法から何がわかるかは固体 物性を理解する上で重要である。各章には代表的な実験 手法の要点を説明した。

従来の多くの固体物性の教科書の焦点は、理論の展開で ある。著者は、過去の難しい本で『以下の式を容易に求 めることができる』に何度もだまされて、式の導出がで きず放り投げたことがある。式の導出には、知識、論理、 根拠が必要である。導出に必要な数学は何か、なぜ必要 か、何を意味するか、式の根拠は何か、という点を常に 意識して必要以上に脚注に記述した。したがって『脚注 ばかりの本』になった。脚注と本文を行き来しては読み にくい。授業中の余談程度として、読者は適宜、読み飛 ばして頂ければ幸いである。

この教科書は、90 分の授業を 12 回行う内容と等価で ある。1 年の授業として使う場合には、演習問題の内容 を授業に加えると幅が広がる。固体物理の教科書として コンパクトであることということを主眼においた。優秀 な読者は、物足りないかも知れない。この教科書を足掛 かりに、より専門的な教科書を読破してくれるなら、著 者の役目を果たしたことになる。学部教育(大学院の基 礎教育)の授業に相応しい教科書に徹することにする。 特に、物理屋くさい不可解な文体を使わないように平易 で、短い文体に心掛けた。これは、この教科書が、工学、 材料科学、化学、医学の分野の人でも独習可能であるこ とを目指しているからである。

コンパクトを主眼においたので、演習問題の詳解は、著 者の Home Page に、 順次おくことにする。また、補足的なデータなども Web 上におきたいと考えている。多くの大学生が現在 internet が使える状況であり、著者の過去の著作もそ れに習っている。読者との対話によって、成長していく 教科書を目指したい。多くの意見をお待ちしたい。

この教科書を作るにあたって、隅野節子様には索引や文 章の校正で大変お世話になった。また、東北大学の物性 実験の先生などから、いろいろコメントやいろいろ興味 深い図、写真を頂いた。ここに深く感謝する。

2008 年 8 月

仙台青葉山にて

齋 藤 理 一 郎

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R. Saito
Last modified: Fri Feb 27 14:23:55 JST 2009