カーボンナノチューブ


カーボンナノチューブの ページ もどうぞ。
1.カーボンナノチューブが拓く世界
炭素でできた直径数nm(1nm=10億分の1m)のチューブである カーボンナノチューブは,その構造によって金属にも半導体にもなる. 半径や構造の違う任意の2種類のカーボンナノチューブがつながる場合, 接続部分の構造は一意的に決まる.計算によれば,金属と半導体の ノナチューブの接合部は通常の金属-半導体接合の特性を示す. 望みの構造のカーボンナノチューブをつくり,つなげることができれば, ナノメートルサイズのデバイスが実現されよう.
2.最強の化学結合

炭素原子間の結合
この世の中で最強の結合は炭素原子間のsp2結合だ、といったのは ポーリングである。一般にs軌道1個とp軌道n個が混成して作る結合 をspn結合という。炭素のsp2結合は、2s軌道と2p軌道2個の混成軌 道だ。ナノチューブは炭素のsp2結合だけなので最強の化学結合なのだ。 自然界で最も硬いダイヤモンドも炭素だ。ところがダイヤモンドの 炭素結合はsp2結合ではなくsp3結合である。一本の結合だけ考えれ ば、一つの炭素原子の手が4 本の sp3 結合より、手が3本のsp2 結 合、さらに手が2本のsp 結合の方が強い。しかし手が3本だと平面 構造だけ、また手が2本だと直線構造だけしかできない。3次元のダ イヤモンド構造は、sp3結合でしかつくれないのだ。sp2結合だけで立 体構造は作れるか?
グラファイト(sp2結合)
炭素のsp2 結合でできる物質は、六角形の模様である六方格子面が 重なる黒鉛(グラファイト)だ。六方格子面内はsp2結合でダイヤモ ンドのsp3結合より強い。しかし2つの面間の結合は非常に弱いので、 黒鉛は海苔を1枚1枚重ねたような『層状構造』をとる。 したがっ て層を滑べらす方向に力を加えると、トランプのカードを滑べらす ように簡単にずれる。
グラファイトの特性の利用
この性質を利用したのが鉛筆だ。鉛筆の芯の 主成分は黒鉛で、層がずれることで字が書ける。 一方黒鉛の面内のsp2結合を利用したものが、炭素繊維(カーボンファ イバー)だ。炭素繊維は、黒鉛の層が木の年輪のように同心円筒状 に重なった構造だ。ナノチューブの親分にあたる。層同士がずれな いように繊維を絡ませ樹脂等で固めると、剛性と柔軟性を兼ね備え た素材になり、つりざおやテニスラケットに使われている。もし炭 素繊維を年輪のような多層でなく1層にすれば、層がずれようがな い。炭素繊維の最内側の芯、それがナノチューブなのだ。
3.新しい半導体への可能性

金属と半導体
ナノチューブはその構造によって,金属にも半導体にもなる. ナノチューブが金属にも半導体にもなるのなら、デバイスを作りた くなる。一般に、半導体に電気を流そうと思うと3価か5価の不純物 を添加し、それぞれ p型 n型の半導体を作って実現した。しかしこ の方法は、1 nm ぐらいの大きさでは不可能だ。なぜなら不純物が 作るエネルギー準位は不純物のまわりに十分広い空間(10 nm 以上) が必要だからだ。だから現在の半導体技術が向上し100nm ぐらいの 細い回路はつくることができるかも知れないが10nm, 1nm だと発想 を変える必要がある。カーボンナノチューブは発想の転換を可能に する物質なのだ。
新たなデバイス
ナノチューブは半導体や金属を不純物をドープせずに実現できる。 したがってまず大きさの下限はナノチューブの大きさの下限 (0.7nm)まで下がる。しかも螺旋度を変えればほぼ同じ半径で金属 と半導体のチューブを炭素だけでできる。例えばこの性質を利用し て、2 層の同心チューブを考えて、外側に電気を流さない半導体の チューブ中を金属チューブになるようにすると、最小の『被覆電線』 が可能だ。3 層の同心チューブで真中を半導体にして2つの金属を はさむとコンデンサー(メモリ)ができる。さらに次にお話しするよ うに、金属チューブと半導体チューブをつなげると、スイッチを作 ることができる。このように、デバイス、コンデンサー、配線すべ てナノチューブでつくることができる点が味噌である。これで小さ い空間で回路をつくる役者は揃った。 金属と半導体を接続するというのは、『木に竹を継ぐ』ような感じ だ。一般には異なる物質が接する界面でいろいろ問題がおきやすい。 界面の大きさを小さくすると、均質な界面を作るのは非常に難しい。 しかしナノチューブの場合には、両方とも炭素だからつなぐのは問 題ない。
異径のチューブをつなげる
螺旋度の異なるチューブを接合できるだろうか? 答は明解 yes である。 異径の チューブをつなげるのは、六方格子だけでは無理だ。しかしフラー レンの設計図の部品であった五角形や七角形を使えば可能だ。六方 格子に五角形があると辺が1つ足りないので図のように円筒形が閉 じようとする。その先に七角形があると閉じるのが止まる。五角形 と七角形の間が円錐台状になり異径のチューブが接合される。
ナノチューブの未来
しかし,この構造を意図して作ることは現在できない。 だが,ナノチューブの科学は将来の技術を引き付ける魅力を十分に持っている. もし,ナノチューブを自由につくることができれば, 半導体の主力が炭素に移る日がくるに違いない.

現在おこなっている研究

ナノチューブの電子状態の計算
炭素のTersoffポテンシャルによる構造最適化
炭素クラスターのタイトバインディングパラメーター計算
リカージョン法による電子状態密度の計算
をするプログラムをつくる.