MOPAC(半経験的量子化学計算)の使い方

1998. 八木 将志作成
  1. 入力データの記入方法
  2. キーワードの説明
  3. 計算方法
  4. 結果要約ファイルの説明
  5. 結果出力ファイルの説明
  6. xmol の使用方法
  7. 研究室用の設定と、難しい話
  8. うまくいかない場合
  9. 遷移金属パラメーター Fe 使用方法
米花君が作ったMOPACの使い方 も見て下さい。
  1. 入力データの記入方法 ( ファイル名は filename.dat にする。)
    メタン(CH4)の例を示す。
    T=1.0D NOINTER GNORM=0.1 PM3 GEO-OK           : 1行目 ←  キーワード
    CH4                                           : 2行目 ←  コメント行
    comments                                      : 3行目 ←  コメント行
    C 0.000  0    0.000  0    0.000  0   0  0  0  : 4行目 ←  内部座標
    H 1.090  1    0.000  0    0.000  0   1  0  0  : 4行目 ←  内部座標
    H 1.090  1  109.000  1    0.000  0   1  2  0  : 4行目 ←  内部座標
    H 1.090  1  109.470  1  120.000  1   1  2  3  : 4行目 ←  内部座標
    H 1.090  1  109.470  1 -120.000  1   1  2  3  : 4行目 ←  内部座標
                                                  : 5行目 ←  空行
    
    1行目の説明
    MOPAC を実行させる上での必要なオプションを記入する。何も書かなくても 実行は可能だが、より複雑な計算を行う時などは必要。詳しい説明は こちらで 説明する。簡単なものは、例に使っている キーワードのみで十分である。
    2、3行目の説明
    コメント行。計算内容や、日付などを入れておくと良い。例外として、 キーワードに " & " や " + " を入れると、キーワード行としても使う事が出来る。
    4、5行目の説明
    内部座標による初期構造の定義をする行である。数値の意味は下の表に示す とおりである。入力データにあり、下の表に無い 0 と 1 の数値は構造最適化の指定であり、 意味は
     1  最適化する。
     0  初期値のまま最適化しない。 
    -1  反応座標とする。(難しいので、ここでは説明しない。)
    
    である。 最初は何も考えずに例の様に参照する原子の無い所は 0 にし、 それ以外は 1 にすれば良い。
    そして、5行目の何もない空行を入れて、定義終了とする。
    番号元素記号結合している元素との距離結合角の大きさ2面角の大きさ結合している元素の番号結合角を作る元素の番号2面角を作る元素の番号
    1C0.000.000.00 000
    2H1.0900.000.00 100
    3H1.090109.000.00 120
    4H1.090109.00120.00 123
    5H1.090109.00-120.00 123
    6        

    入力データの入れ方
    2番目までの原子を入れた入力データの表示
    1番と 2番の結合距離のみで定まる。。
    3番目までの原子を入れた入力データの表示
    3番目の原子位置は、1番との距離と、∠312 で作る角度のみで定まっている。
    4番目までの原子を入れた入力データの表示
    4番目の原子は、1番との距離と、∠412で作る角度と、△412と△123の2面角で定まる。
    5番目までの原子を入れた入力データの表示
    5番目の原子は、1番との距離と、∠512で作る角度と、△512と△123の2面角で定まる。
    この時、三角形を作る原子の順番に向きを考える。
    そして、三角形の上から見て、右周りが正、左周りが負である。
    図の△123では上の方向が正で、下方向が負の向きと考える。
    2面角に対しては、頭の中でイメージが出来にくいので、 xmolで確認しながら作ると良い。
    また、入力データの例を載せるので、これを真似ながら作成するのもいいでしょう。 データの作成は、慣れと真似が大切です。
    入力データ作成時の注意。
    ある原子の構造を決める時参照する3つの原子は、同じ原子を用いてはならない。
    未定義 ( 指定する原子より後ろの原子 ) の原子を用いて構造を決めては行けない。
    最初の 3原子は、指定してはいけない部分がある。( 例の 0.00 になっているところ。)
    入力データの例
    ベンゼン(C6)
    C24H12
    C60
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  2. キーワードの説明
    ハミルトニアンの指定
    ハミルトニアンの指定何も入れないとMNDO 法を使用する。
    MINDO/3  : MINDO/3 法を使用。
    AM1      : AM1 法を使用。
    PM3      : MNDO-PM3 法を使用。おすすめ。
    
    計算を早く収束させる為のキーワード
    SHIFT = n  : 計算開始に減衰ファクターn を定義する。
    PULAY      : Pulay の強制収束法を使用する。
    CAMP       : CAMP-KING を用いた収束法。
    
    その他、よく使っているキーワード
    T=n       : 最大CPU 時間 n 秒。入れなくても約 24時間で終了。
    NOINTER   : 原子間距離を印字しない。
    GNORM=n.n : エネルギーの勾配ノルムがn.n以下になったら、計算終了。1.0〜0.1を推奨。
    GEO-OK    : 原子が異常に接近した場合のチェックを無視。
    UHF       : 非制限Hartree-Fock計算。入れないと、Hartree-Fock(RHF)計算を行う。
    
    その他の使用したことのあるキーワードを、 「研究室用ページ」 に載せてあります。 多くのキーワードがありますが、難しいので勉強してから使いましょう。
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  3. 計算方法
    設定の確認
    計算プログラムと、xmolが使用できる環境か確認してください。 (教育系には Free の Mopac がおいてあります。研究室には 購入した 有償の Mopac があります。)
     % which mp.exe  (名称は、これ以外かも知れません。)
     % which xmol
    
    上のように出ればOKです。
    そして、入力ファイルのあるディレクトリに移動し、計算を実行する。 この時、入力ファイルの ".dat" は入れないこと。入れると計算できません。
     % ls
     filename.dat
     % mp.exe filename
    
    負荷をかけすぎないため、同時に計算をするのは止めましょう。
    計算中及び、終了後に次のような拡張子を持ったファイルが出力されます。 それぞれの意味は次のようになります。
    計算中、終了後にあるファイル
    
      filename.out   : 結果出力ファイル
      filename.res   : 再起動用ファイル
      filename.den   : 密度行列ファイル
      filename.log   : 計算経過モニターファイル
      filename.end   : 停止命令用ファイル
             "filename.res"と"filename.den"は、計算中約1時間事に作成される。
             そして、計算をやり直す時に両方とも必要で、キーワード"RESTART"
             を入れ計算を行うと、途中から計算を始めることが出来る。
    
    計算中のみあるファイル
      filename.temp  : 入力ファイルのコピー ( 計算中に"filename.dat"を書き換えても良い)
      tmp.FAAa002.d  : 不明。
           これらのファイルは強制的に計算を終了させた場合消えずに残っているため、
           ファイル容量の無駄な為、消すこと。
    
    計算後に出力されるファイル
      filename.arc  : 結果の要約ファイル
           同じ"filename"で計算を行うと、このファイルのみ上書きされずに
           "filename.arcaa" → "filename.arcab" → …
           となる。そして、"xmol" で結果の構造を確認する時は、このファイルを読み込む。
    
    計算終了後で、再計算をしない場合は不必要なファイルは全て消すこと。 残しておくべきファイル名は、"filename.dat"、"filename.out"、"filename.arc"である。 もっと消したい場合は、"filename.out"だけ残せば良い。
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  4. 結果要約ファイルの説明
    このファイルが存在しない時、計算は正常に終了していません。"filename.out" を見て、原因を確かめてからやり直してください。
    メタンを例にファイルにのっている内容を次に示します。簡単な説明を添付するので 自分の結果と見比べてください。
                         SUMMARY OF   PM3   CALCULATION
                                                                MOPAC  93.00
      C   H4 
    
     T=1.0D NOINTER GNORM=0.1 PM3 GEO-OK   ←(入力したキーワード)
     CH4                                   ←(入力したコメント)
     comments                              ←(入力したコメント)
    
         PETERS TEST WAS SATISFIED IN BFGS OPTIMIZATION    
         SCF FIELD WAS ACHIEVED                            
               ↑
    (計算結果の説明。"TKAE CARE" などが出ている時は、"filename.out"のファイルを
     良く見る必要がある。計算が正しく終了していない場合がある。)
    
              HEAT OF FORMATION       =       -13.025645 KCAL =    -54.49930 KJ
    ↑(生成エネルギー。低い方安定な構造である。)
              ELECTRONIC ENERGY       =      -384.912477 EV
              CORE-CORE REPULSION     =       204.376508 EV
              DIPOLE                  =         0.00001 DEBYE    SYMMETRY:       Td  
              NO. OF FILLED LEVELS    =         4
              IONIZATION POTENTIAL    =        13.642261 EV
              HOMO LUMO ENERGIES (EV) =       -13.642  4.245
              MOLECULAR WEIGHT        =        16.043
              SCF CALCULATIONS        =         5
              COMPUTATION TIME =   0.060 SECONDS
    
              FINAL GEOMETRY OBTAINED                                    CHARGE
    ↓(最適化された構造と、それぞれの原子の電荷。ここから下の部分を残してファイル名を
       "filename.dat"にすればこの構造から計算を始めることが出来る。この時、"CHARGE"の
       数値を消す必要はない。)↓
     T=1.0D NOINTER GNORM=0.1 PM3 GEO-OK
     CH4
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      C    0.00000000  0    0.0000000  0    0.0000000  0    0    0    0     -0.1104
      H    1.08702831  1    0.0000000  0    0.0000000  0    1    0    0      0.0276
      H    1.08695850  1  109.4715814  1    0.0000000  0    1    2    0      0.0276
      H    1.08692930  1  109.4620522  1  120.0000000  0    1    2    3      0.0276
      H    1.08695094  1  109.4687338  1 -120.0000000  0    1    2    3      0.0276
    


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  5. 結果出力ファイルの説明

     *******************************************************************************
     **                            MOPAC 93 (c) Fujitsu                           **
     *******************************************************************************
                                     PM3 CALCULATION RESULTS
     *******************************************************************************
     *                   MOPAC  93.00               CALC'D. Thu Jun 11 19:45:36 1998
     *  GEO-OK   - OVERRIDE INTERATOMIC DISTANCE CHECK
     *   T=      - A TIME OF     1.000 DAYS    REQUESTED
     *  DUMP=N   - RESTART FILE WRITTEN EVERY  3600.000 SECONDS
     *  PM3      - THE PM3 HAMILTONIAN TO BE USED
     *  NOINTER  - INTERATOMIC DISTANCES NOT TO BE PRINTED
     *  GNORM=   - EXIT WHEN GRADIENT NORM DROPS BELOW .100    
     ***********************************************************************080BY080
    ↑(キーワードの説明)↑
     T=1.0D NOINTER GNORM=0.1 PM3 GEO-OK
     CH4
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        ATOM   CHEMICAL  BOND LENGTH    BOND ANGLE     TWIST ANGLE
       NUMBER  SYMBOL    (ANGSTROMS)     (DEGREES)      (DEGREES)
        (I)                  NA:I          NB:NA:I      NC:NB:NA:I     NA   NB   NC
    
          1      C       
          2      H         1.09000  *                                  1
          3      H         1.09000  *     109.00000  *                 1    2
          4      H         1.09000  *     109.00000  *  120.00000      1    2    3
          5      H         1.09000  *     109.00000  * -120.00000      1    2    3
    ↑(入力データ)↑
    ↓(入力データのxyz座標)↓
              CARTESIAN COORDINATES 
    
        NO.       ATOM         X         Y         Z
    
         1         C        0.0000    0.0000    0.0000
         2         H        1.0900    0.0000    0.0000
         3         H       -0.3549    1.0306    0.0000
         4         H       -0.3549   -0.5153   -0.8925
         5         H       -0.3549   -0.5153    0.8925
      H: (PM3): J. J. P. STEWART, J. COMP. CHEM.     10, 209 (1989).                
      C: (PM3): J. J. P. STEWART, J. COMP. CHEM.     10, 209 (1989).                
    
          MOLECULAR POINT GROUP   :   C1  
    
          RHF CALCULATION, NO. OF DOUBLY OCCUPIED LEVELS =  4
     CYCLE:   1 TIME:   0.012 TIME LEFT: 24.00H  GRAD.:     0.573 HEAT:-13.02545    
     TEST ON GRADIENT SATISFIED
    PETERS TEST SATISFIED
    ↓(ここから計算結果の内容)↓
     -------------------------------------------------------------------------------
     T=1.0D NOINTER GNORM=0.1 PM3 GEO-OK
     CH4
     comments
    
         PETERS TEST WAS SATISFIED IN BFGS OPTIMIZATION           
         SCF FIELD WAS ACHIEVED                                   
    
                                    PM3    CALCULATION
                                                           MOPAC 93.00
    
       FINAL HEAT OF FORMATION =        -13.02565 KCAL =    -54.49930 KJ
    
       TOTAL ENERGY            =       -180.53597 EV  ←(最適化された分子の全エネルギー)
       ELECTRONIC ENERGY       =       -384.91248 EV  POINT GROUP:     Td  
       CORE-CORE REPULSION     =        204.37651 EV
    ↑(電子エネルギーと、核間エネルギー)↑
       IONIZATION POTENTIAL    =         13.64226
       NO. OF FILLED LEVELS    =          4
       MOLECULAR WEIGHT        =     16.043
    
       SCF CALCULATIONS  =                5
       COMPUTATION TIME =   0.054 SECONDS
    
    ↓(最適化構造)↓
        ATOM   CHEMICAL  BOND LENGTH    BOND ANGLE     TWIST ANGLE
       NUMBER  SYMBOL    (ANGSTROMS)     (DEGREES)      (DEGREES)
        (I)                  NA:I          NB:NA:I      NC:NB:NA:I     NA   NB   NC
    
          1      C       
          2      H         1.08703  *                                  1
          3      H         1.08696  *     109.47158  *                 1    2
          4      H         1.08693  *     109.46205  *  120.00000      1    2    3
          5      H         1.08695  *     109.46873  * -120.00000      1    2    3
    
          MOLECULAR POINT GROUP   :   Td  ←(構造の対象性の属する群。群論を学んでから)
    
                      EIGENVALUES ←(分子軌道エネルギー)↓
    
     -29.88062 -13.64326 -13.64292 -13.64226   4.24497   4.59401   4.59449   4.59468
    
          NET ATOMIC CHARGES AND DIPOLE CONTRIBUTIONS ←(原子上の電荷)
                                                         ↓
             ATOM NO.   TYPE          CHARGE        ATOM  ELECTRON DENSITY
               1          C          -0.110420        4.1104
               2          H           0.027593        0.9724
               3          H           0.027612        0.9724
               4          H           0.027605        0.9724
               5          H           0.027611        0.9724
     DIPOLE           X         Y         Z       TOTAL
     POINT-CHG.     0.000     0.000     0.000     0.000
     HYBRID         0.000     0.000     0.000     0.000
     SUM            0.000     0.000     0.000     0.000
    
              CARTESIAN COORDINATES ←(xyz座標)↓
    
        NO.       ATOM               X         Y         Z
    
         1         C                  0.0000    0.0000    0.0000
         2         H                  1.0870    0.0000    0.0000
         3         H                 -0.3623    1.0248    0.0000
         4         H                 -0.3621   -0.5124   -0.8875
         5         H                 -0.3623   -0.5124    0.8875
    
              ATOMIC ORBITAL ELECTRON POPULATIONS ←(軌道の電子密度)
                                                     ↓
       1.11082   0.99987   0.99987   0.99986   0.97241   0.97239   0.97240   0.97239
    
     TOTAL CPU TIME:             0.06 SECONDS
     == MOPAC DONE ==
    NO ATOMS IN SYSTEM
    

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  6. xmol の使用方法
     % xmol &
    
    で起動。そうすると、xmolのwindowが開き、その上に、もう 1枚windowが開くので、 そこの continue をクリックして下さい。 それで準備 ok です。あとは、file を読み込んで下さい。
    この時、読み込むファイルは"filename.dat"と"filename.arc" です。
    FORMAT はそれぞれ"MOPAC input (internal)" と "MOPAC archive" です。
    分子の回転方法
    window上のTransformのRotateまたは、AimのOrbitをクリックして下さい。 そうしてから、表示されている分子にマウスを合わ せ左ドラッグしマウスを動かして下さい。そうすると、回転します。
    構造の測定方法
    ExtrasのMeasure をクリックしてください。後は、右クリックで原子を指定し、
    それらの、xyz 座標、距離、角度が表示されます。
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