一方乱れた常伝導体と超伝導体との接合においては、常伝導体の中での電子とホー ルの干渉効果によりZBCPが現れることがしられている。このピークの起源は、乱れた 常伝導領域における近接効果によるものである。この起源の異なる2つのZBCPの関係 を解明することは 実験の解析を精密にするのみでなく、メソスコピック超伝導の物 理に新しい流れを作る上で重要である。
この問題に答えるために、最近s波超伝導体で作られているケルディッシュグリー ン関数を用いた境界条件(マトリックスカレント)[2]を異方的超伝導体に対しても 適用可能なように一般化を行った[3]。 そして近接効果と接合の電気伝導度を系統的 に扱える一般的な理論を導いた。この一般論をd波のようなシングレットの超伝導体 に適応すると、アンドレーエフ共鳴状態の存在と近接効果は競合することが明らかに なった。またこの理論をトリプレット超伝導体に対して適応するとトリプレット超伝 導体ではアンドレーエフ共鳴状態と近接効果が共存して強め合う。特にすべての準粒 子が共鳴を感じるときには、接合形の合成抵抗が乱れた領域の抵抗に一切依存しない というという強い性質があることを解明した。また、アンドレーエフ共鳴状態による ZBCPと近接効果によるZBCPが共存して2つのZBCPが存在する特徴あるdI/dV特性が現 れる[4]。
こうした研究成果は今後トリプレット超伝導体を探索する上で極めて重要である。
参考文献
[1]Y. Tanaka and S. Kashiwaya, Phys. Rev. Lett. 74 3451(1995); S. Kashiway and Y. Tanaka, Rep. Prog. Phys. 63 1641(2000).
[2]Yu.V. Nazarov, Superlattices and Microstructuctures 25, 1221 (1999), cond-mat/9811155.
[3]Y. Tanaka, Y.V. Nazarov and S. Kashiwaya; Phys. Rev. Lett. 90 167003 (2003).
[4]Y. Tanaka and S. Kashiwaya cond-mat[0308123].
本講演は、田仲先生を大学院講義『物性物理特論』の集 中講義(12/10 3 限 -12/12 2 限)でお招きする機会にお話をお願いしま した。詳細にご関心があるかたは、集中講義の方も聴講いただければ幸です。