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科研費特定領域研究(A)
フラーレンナノチューブネットワーク
ニュースレター Vol.1 No.1 (1999) pp.24-25

金属内包フラーレンと高次フラーレンの合成と
新規物性の開拓

東京都立大学大学院理学研究科

菊地 耕一

 

 

 フラーレンを配列集合化、ポリマー化などにより新規物性の開発を目指す研究において、パーツとなるフラーレン分子の基礎的研究は重要である。研究代表者らはこれまで、種々の高次フラーレンや金属内包フラーレンの構造や性質を明らかにしてきた。本研究においては、これまでの研究をさらに進展させるとともに、生成量が少ないために進展していない高次フラーレン・金属内包フラーレンの階層化に取り組み、新規物性の開発を目指す。

 

1.新規金属内包フラーレンの合成と物性

 これまでの研究で、フラーレンケージに、希土類元素以外にも、Caなどの元素が内包されることが明らかにされた。また、内包される個数も4個まで可能であることが報告されている。しかし内包される原子は、ケージ内では+2ないし+3の酸化数を取っており、しかも、異なる種類の原子を内包したものを単離した研究はこれまで無かった。我々は、最近、世界に先駆け、異なる金属を内包するヘテロ金属内包フラーレンの単離に成功した。複数個の金属を内包するフラーレンは原子間に生じる相互作用の研究が集合化した際の物性に大きく影響を与える。特にヘテロ金属内包フラーレンにおいては、その効果が増大することが期待される。また、内包される個数により、原子の酸化数が+2から+3に変化することを見出した。この現象はフラーレンケージの安定性とも密接に関係していると考えられる。そこで、種々のヘテロ金属内包フラーレンの合成単離法し、その電子状態をSTMにより、ナノスケールで研究することにより、金属内包フラーレンの性質を解明する。また、+1や+4などの酸化数を内包した新規内包金属フラーレンの合成法を探求する。酸化数が異なることにより、ケージの価数が異なるため、集合体における物性が大きく異なることが期待される。具体的には、Hfやアルカリ元素などを内包させることを試みる。

 

2.高次フラーレンの構造と電子状態の研究

 我々は、これまでにC110の単離ならびにC94の分子構造に関する研究を行ってきた。本研究においては、さらに炭素数が大きな高次フラーレンの分子構造と電子状態の解明を目的とする。これまでの研究では、現有設備のNMRを用いた分子構造決定の限界は炭素数100程度に存在するので、STMにより、分子の形状から、分子構造を解明しようとするものである。分子形状は、これまで対称性しか解明されていない高次フラーレンの分子構造の決定にも役立つ。また、形状から高次フラーレンがナノチューブに繋がるか否か解明したいとも考えている。また、高次フラーレンのSTSを測定することにより、高次フラーレンの分子の電子構造を研究し、集合体における物性を検討するための基礎データを収集する。同時に計算とも対応させ、分子構造を解明するためにも役立てたいと考えている。

 

3.金属内包フラーレン・高次フラーレンを用いた新規物性の開拓

 金属フラーレン・高次フラーレンの階層化に取り組み、新規物性の開発を行う。C60に長鎖アルキル基を付加した物質では、フラーレン部位が二次元に配列し、しかもアモルファスに比べて大きな光伝導を示すことが予備的研究で明らかになった。このように、置換基を付加したり、ポリマー化することにより、フラーレン部位の配列を制御させ、新規物性の開拓を目指す。