科研費特定領域研究(A)
フラーレンナノチューブネットワーク
ニュースレター No.1 (1999) pp.22-23
金属内包C60の高効率合成・構造
解明と新物質開発
岡山大・大学院自然科学研究科
久保園芳博
本研究課題は,金属内包C60 (M@C60)の高効率合成・
構造解明と新規物質開発を目的としている.M@C60は,フラ−レン中の基
本分子であるC60内部に金属原子が内包された分子であるが,M@C60
分子の対称性や電子状態から,超伝導を始めとする興味深い物性の出現が期待
されている.しかしながら,M@C60の効率的な合成ならびに精製・分離技
術が未確立なために,未だ,構造・物性の解明はほとんど進行していない.本研究課
題はこの現状を打開し,M@C60をベ−スにした新しい物質科学分野を切り
開くことを目的としている.研究の目標を図示すると以下のようになる.
M@C60の高効率合成・構造解明と新規物質開発を以下の計画に従っ
て実行する.
平成11年度
M@C60の高効率合成と精製・分離技術確立のために,ランタノイド系列
金属原子を内包したC60の高効率合成法を探る.すでに,ランタノイド系
列原子の内包C60の生成ならびに,アニリンを使った溶媒抽出については,
申請者らによってアメリカ化学会誌を始めとする雑誌に報告されており,生成・抽出
法についての基礎的デ−タが得られているので,これをもとに,M@C60生
成用のア−ク放電炉の改良と放電条件の詳細な検討ならびに,原料となる酸化金属含
有炭素棒の生成過程についての検討を行って高効率合成法を探索する.分離・精製技
術については,これまでに高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により,かなりの程度精
製された溶液を得ている.また,現在までに,昇華精製法が効率的に他のフラ−レン
類や不純物クラスタ−を除去できること,昇華試料をアニリンに溶解させHPLC操作を
行うことでM@C60が分離可能なことがわかっている.これらの結果をもと
に,精製・分離技術の確立と大量のM@C60を分取するための実験を行う.
M@C60の生成メカニズムの解明についての基礎的研究も,上記技術の確立
と並行して進める.さらに,粉末X線回折,単結晶X線回折ならびにX線吸収微細構造(
XAFS)法を用いて結晶ならびに分子構造を決定し,金属原子の位置と金属原子の動力
学的挙動の解明を行う.また,M@C60の磁気的,電気的特性などの基本的
な物性を明らかにする.これらの研究は,研究室の現有設備と,高エネルギ−加速器
研究機構・放射光実験施設(KEK-PF)ならびに大型放射光実験施設(SPring-8)を積極
的に利用して行う.
平成12年度
平成11年度の成果をもとに,M@C60をベ−スにした新物質開発を重点的
に進める.とくに,M@C60単独の物性研究の結果をもとに,アルカリ金属
原子やアルカリ土類金属原子のM@C60結晶中へのインタ−カレ−ション,
さらにアンモニアを始めとするガスの導入と錯形成による物性の発現を検討する.ラ
ンタノイド系列原子以外にアルカリ土類金属原子を内包した新しいM@C60
の生成・分離を行い,M@C60をベ−スにした物理と化学を推進する.
Yoshihiro Kubozono