ナノチューブおよびそのアルカリ金属錯体の電子構造の
STM/STSによる評価
法政大学 工学部 丸山 有成
ナノメータ領域のサイズを持つ物質の構造と物性を調べる手段として走査型トンネル顕微鏡は微視的な情報を直接与えてくれるものとして極めて重要な方法の一つと考えられる。特に、分子一個とかチューブ一本の構造、電子構造などの分子性物質についての微視的情報を得るためには大変有効な手段である。最近では、空間分解STS(Spatially Resolved Scanning Tunneling Spectroscopy:SR/STS)というキーワードも提案されている。そこで本研究では、単層カーボンナノチューブの炭素原子配列構造と電子構造との相関を温度の関数としてまず明らかにすること、また、配列の乱れ(欠陥)が電子構造にどのような影響を与えるか、さらには、アルカリ金属をドープしたときの金属とチューブの相互配置と金属によるチューブの電子構造の変化などを調べることを計画している。
上記の実験計画に対してのこれまでの準備状況の一部を述べる。
1.単層カーボンナノチューブ(SWCNT)のモルフォロジー研究(1)
東北大 田路らによってアーク放電法により合成され、水熱法で精製されたSWCNTをスピンコーテイング法でHOPG上に並べ、空気中、室温でSTM観察を行い、(8,8)アームチェア型チューブが存在することを明らかにした(図1,2)。
2.RbxC60薄膜の局所電子構造のトンネル顕微鏡による解析(2)
C60のアルカリ金属錯体の金属的な導電性の発現に対するアルカリ金属の役割を明ら にするために、RbxC60薄膜の超高真空走査型トンネル顕微鏡によるSTM/STS解析 を行った。SR/STSの手法を用いて、ルビジウムドープ前後で隣接するC60分子の間 の位置でのトンネルスペクトルのフェルミレベル付近に大きな変化が現れることが明 らかとなった。ドープ前にはエネルギーギャップであった領域におそらくC60とルビ ジウムの軌道混成によって新しい状態密度が発現したものと考えられ、これが金属的 な導電性に決定的に寄与しているものと考えられる(図3)。
(1). Y.Maruyama, et al., Fullerene Sci. Tech., in press.
(2). 池田 教次郎、法政大学 修士論文 1999年。
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図1 図2
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図3