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科研費特定領域研究(A)
フラーレンナノチューブネットワーク
ニュースレター No.1 (1999) pp.51-52.

フラーレン化合物における電子間相互作用
と電子格子相互作用の理論的研究


筑波大学物質工学系 中尾憲司・鈴木修吾・岡田晋

フラーレン化合物における電子間相互作用と電子格子相互作用はその物性を理 解する上で重要な役割を果たしている。これまで我々はアルカリ金属ドープ C60(AxC60)においてみられるいくつかの異常を電子間相互作用 と電子格子相互作用を考慮することで説明できるとの提案を行なってきた。特 にx=2、4の相がリジットバンドピクチャーからは単純金属であると予想さ れるのに反し現実には絶縁体であるのは、これらの系において電子間相互作用 と電子格子相互作用が協力的にバンドギャップを形成するためであることを明 らかにした。また、x=3の相は現実には通常の金属として振舞っているよう にみえるにも関わらず、実はモット転移寸前の系であるとの提案も行なってい る。x=2、x=3における状態密度の摸式図を図1に示す。また最近では、ア ンモニアをドープしたx=3の系がモット絶縁体であることが明らかにされ、 x=3の相における電子間相互作用と電子格子相互作用に由来する異常性も少 しずつ明らかにされつつある。




\psbox[width=150mm]{fig01.epsi}


図1

しかしながら、これまでの研究は電子間相互作用と電子格子相互作用が現実的 な値の近傍においてのみ以上のような特徴が現れることを明らかにしたものの、 電子間相互作用と電子格子相互作用のより広い値の領域でどのような状態が現 れるのかについては今だに詳




\psbox[width=150mm]{fig02.eps}


図2
しい研究は行なわれていない。今後新たに合成されるであろうさまざまなフラー レン化合物の物性を理解するためにも、また逆に、新たなフラーレン化合物を 合成する際の指針を得るためにも、このようなグローバルな視点からの理論的 研究が必要である。そこで本研究では、フラーレン化合物における電子間相互 作用と電子格子相互作用をより広い視点から調べることにより、いかなる状態 が現れ得るのか、また物理量の温度依存性ついて明らかにする。具体的には、 図2に示すような相図において各々の相境界を明らかにする。

またこの研究と並行して、新奇フラーレン化合物として注目を集めている金属 内包フラーレンの固体相における電子間相互作用と電子格子相互作用について も研究を進める。はじめに金属内包フラーレンの固体相における電子状態につ いて第一原理からの研究を行ない、そこから得られたパラメータをもとにモデ ル計算によって相図や物理量の温度依存性について明らかにする。この新しい タイプのフラーレン化合物はこれまでのフラーレン化合物とはまったく異質な 物性を示す可能性を秘めており今後の研究の発展が期待されている。現在のと ころ良質の結晶を大量に得ることは困難であるが、逆に、この意味で理論的に 予測される物性を事前に調べておくことは大変重要であると考えられる。

本研究では、金属内包フラーレンの固体相の中でも、特に、ランタノイドを内 包したフラーレンの固体相を中心に研究を進める。この金属内包フラーレンは 中心に局在した4f電子を有するため、従来のフラーレン化合物とはかなり異 質な物性を示すものと期待される(図3)。特に、内包原子の4fバンドとフラー レン起源のバンド間における混成の可能性、また、4f電子のスピン状態などが 興味深い点である。電子状態は我々が独自に開発した相対論的密度汎関数理論 に基づく第一原理計算によって調べる。特にランタノイドなどの重い元素を含 む系では相対論効果を考慮することが必須であると考えられるため、本研究で は上記手法に基づいて電子状態を調べる予定である。さらに、金属内包フラー レンにおける電子間相互作用や電子格子相互作用を第一原理から調べることに より、モデル計算のためのパラメータを決定し金属内包フラーレンの固体相の 相図や物理量の温度依存性なども明らかにしていく。




\psbox[width=150mm]{fig03.eps}


図3



Kenji Nakao, Shugo Suzuki, Susumu Okada