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科研費特定領域研究(A)
フラーレンナノチューブネットワーク

ニュースレター No.1 (1999) pp. 36−38

MEMによるフラーレン化合物の電子密度レベルでの構造研究

島根大学・総合理工学部
高田昌樹

研究目的:

研究代表者は、マキシマムエントロピー法(MEM)という全く新しい精密構造解析法を用いて、Y@C82, Sc@C82, La@C82, Sc2@C84等の金属内包フラーレンの構造を粉末X線回折データから明らかにしてきた(図1)。特に、フラーレン物質においてはケージ構造モデルを仮定する事が非常に困難で、MEMのモデルフリーな構造予測性が構造解析の成功に大きく貢献した。しかし、MEMによって得られる結果は物質の電子密度分布であり、単にそのネットワークと内包構造だけでなく電子レベルでの実空間での構造を明らかにする事ができるはずである。本研究では、金属内包フラーレンの電子密度レベルでの更なる精密な構造を明らかにし金属内包フラーレンの物性研究への展開への一助とする事が目的である。具体的には、内包金属からフラーレンケージへの電荷移動の詳細な様子、内包金属とケージとの結合形態、ケージ内での金属原子のダイナミックス等についての解明を目指す。また、最近、IPRから外れた非IPR金属内包フラーレン、Ca@C72等の存在が理論的に予測されている。これについても、本研究により実験的な検証を与えていく。


  

図1 Sc@C82と Sc2@C84のMEM電子密度分布



学術的な特色・独創的な点:

研究代表者はMEMとリートベルト法を組み合わせた新しい方法をY@C82の構造解明の際に開発し、X線粉末回折データから内包構造を明らかにする事ができるようにした。従来の構造解析法では、電子密度レベルでの金属内包フラーレンの構造を明らかにする事は難しかった。本研究の特色は、このMEMとリートベルト法を組み合わせた独創的な手法を用いて、金属内包フラーレンという非常に複雑な系の物質について、単なる構造決定でなく物性研究に必要な電子のレベルでの構造情報を提供するところにある。

国内外の位置づけ:

最近、La@C82については東大・寿栄松グループが単結晶育成に成功し、金属内包フラーレンの物性研究が、C01班の岩佐らの研究グループによって展開されつつあり、本研究の必要性は、ますます増している。

研究の準備状況:

本研究の基本となる方法論として採用するマキシマムエントロピー法とリートベルト法を組みあわせた新しい精密粉末構造解析システムの構築を、ほぼ、終了した。上記研究により、この新しい方法は、非常に強力な解析法である事が実証された。その例証として、世界に先駆けて金属内包フラーレンY@C82,Sc2@C84 の構造解析に成功した。この研究成果がNature誌上に発表されるや、社会の関心を集め幾多の新聞紙上をにぎわす事となった。また、アルカリ金属ドープフラーレンについても同様の方法により、電子密度を求めたところ(図2)、超伝導の発現とC60ケージの結晶中の描像、そして、ドープした金属からケージへの電荷移動の違いが、予備的ではあるが明らかになった。

  

図2 アルカリ金属ドープフラーレンのMEM電子密度
 

研究計画:

平成 11 年度

11-1これまで構造を明らかにしてきた金属内包フラーレンの他に Ca@C72,Ce@C82やLa2@C80などの異なる金属元素、異なるケージ、多金属内包フラーレンについて、粉末X線回折データを測定しMEMにより精密な電子密度分布を明らかにする。試料についてはB01班と連携を持ちながら、研究を進めていく。

11-2 MEMによって得られた電子密度から、電荷の見積もり等が原理的にできるが、その方法については原子と原子の間の境界設定などについて確立した方法が存在しない。よって、MEM電子密度の定量電荷解析法を確立し、計算機プログラムを開発する。これにより得られた結果について、電荷移動について明らかにしていく。
11-3 金属内包フラーレンの電子密度分布を更に詳細に検討するため、得られた電子密度のトポロジー解析を試みる。
11-2 平成12年度にフラーレン用X線回折装置(特注品)を購入する予定である。これは、実験室系においても効率よく微量のフラーレンから回折データを測定するためのもので、多層膜モノクロメータとイメージングプレートを用いた高感度X線回折装置である。この装置のデザインを行う。

平成 12 年度平成12年度にフラーレン用X線回折装置(特注品)を購入する予定である。これは、実験室系においても効率よく微量のフラーレンから回折データを測定するためのもので、多層膜モノクロメータとイメージングプレートを用いた高感度X線回折装置である。この装置のデザインを行う。

12-1 購入した装置での実験解析を試みる。
12-2 B01班で生成された各種内包フラーレンの構造解明を行っていく。また、B02版の理論研究と連携し、同班の他の実験結果とも合わせて、議論を進めていき金属内包フラーレンの物性解明を目指す。

12-3 アルカリ金属ドープフラーレンについても、その電子密度レベルでの構造解明を、特に高圧力下での超伝導転移温度の変化と電子密度レベルでの構造変化との関連についてC01班の岩佐らとともに進めていく。

 


Masaki Takata
1999-06-25