1. はじめに
多層カーボンナノチューブは、1991年にNECの飯島によっ
て見いだされたのであるが、その発見のもとになった試料は、研究代表者らによって作られたものであった。その縁で、研究代表者らはそれ以来、多層カーボンナノチューブの生成条件を明らかにすることに専念し、多くの成果を得てきている。特に純粋なグラファイト棒を直流アーク放電で蒸発する際、雰囲気ガスとして低圧の水素ガスだけを使用することにより、高品質の多層カーボンナノチューブが作製できることを明らかにしてきた。一方、研究分担者は、金属触媒を入れたグラファイト棒を蒸発して作製した単層カーボンナノチューブを精製して、その物性測定を行い、多くの成果を得てきている。本研究では、両方を融合させて、単層および多層カーボンナノチューブのミクロ構造を解析していく。これらのミクロ構造解析を行うことにより、それぞれのナノチューブの生成機構の解明に役立ち、ひいてはそれらの大量製法の確立へとつながる。さらに、大量製法が確立されれば、ナノ電子材料などの材料科学への応用の道が拓けてくることが期待される
。
2. 研究方法
水素ガス中での直流アーク放電によるグラファイトの蒸発は、研究代表者らが、CH4ガス中の蒸発で多層カーボンナノチューブがよく生成されることを見いだした延長として、開発した方法である。それによって得られる多層カーボンナノチューブは、従来の不活性ガス中蒸発で作製されるナノチューブに比べて、グラファイトの結晶性が高く、
10ミクロンを越える長いものが作製できる。また、同時にできるナノ粒子も、Heなどの不活性ガスの中で作製した場合に比して、極端に少ないことから、それらを除去して精製するのも容易であるという特徴を持っている。実際、赤外線放射加熱装置で空気中において試料を500℃に約30分加熱するだけで、ナノ粒子が除去できて精製できることが明らかになった。一方、研究分担者らの行ってきた単層ナノチューブの精製法も独創的で、高品質のナノチューブの大量製法への道を拓くものである。これらの高品質ナノチューブを用いた物性研究では、特徴的な成果が得られつつある。一方、単層ナノチューブは1993
年にその存在が見いだされ、1996年にレーザーアブレーション でそれが多量に作
製できることが明らかにされてから、世界中でその研究が広まっている。研 究分担者らも、その試料を用いて、新しい精製法を試み多くの成果を得てきている。
したがって、我々のグループでは、多層、単層いずれのチューブにおいても、その精製法に関しては世界でトップを走っていると言っても過言ではない。その量産化への道が開かれれば、多方面への応用が期待される。そのように
して得られた試料の材料科学への応用は、世界の随所で行われているが、我 々もそれに負けない成果を得ようと努力している。
3. 研究計画
多層カーボンナノチューブの作製は、現有の直流アーク放電装置を用い、雰囲気ガスとしては水素ガスを用いて研究代表者が主に行って
いく。また、作製した多層カーボンナノチューブの精製は現有の赤外線放射加熱装置
を用いて行う。単層カーボンナノチューブの作製および精製は、研究分担者が現有設備を用いて行う。このようにして得られた試料のキャラクタリゼーションは、両者が現有の設備;X線回折装置、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡を用いて行っていく。特に、透過型電子顕微鏡については高分解能の装置が平成10年度末に、
研究分担者の所属している科学技術振興事業団の「チューブ状物質」プロジェクトに設置された。したがって、今後はそれを用いたより高分解能のナノチューブのミクロ構造解析を進めていく予定で
ある。それらのミクロ構造解析と同時に、材料科学への応用をめざして、ナノチューブのハンドリング技術を確立すべく、平成10年度に研究代表者が科研費で購入したマイクロマニピュレータを活用していく。また、平成12年度にはそれに加えて走査型プローブ顕微鏡を設置して、ナノチューブの表面構造の解析を行っていく。
その様子を図式化すれば以下のようになる。
フラーレンナノチューブネットワーク
ニュースレター No.1
(1999) pp.6-7
ミクロ構造解析と材料科学への応用
研 究 代 表 者
研 究 分 担 者
試 料
多層カーボンナノチューブ
単層カーボンナノチューブ
作 製 と 精 製
作 製 と 精 製
キャラクタリ
ゼーション
装置
X線回折装置
(XRD)
走査型電子顕微鏡
(SEM)
透過型電子顕微鏡
(TEM)
走査型プローブ顕微鏡
(SPM)
ハンドリング
マイクロマニピュレータ
yando@meijo-u.ac.jp, bandow@meijo-u.ac.jp