研究の背景:
われわれがこれまで開発してきた透過型高分解能電子エネルギー損失顕微鏡は、電子顕微鏡法により特定したナノスケール領域のスペクトルを得ることにより物質の電子構造(光学的・誘電的性質)を明らかにすることができる。 現在、世界最高のエネルギー分解能12meVを有する(文献1,2)。この装置を用い、フラレンやナノチューブの電子構造解析を世界に先駆けて行ってきた(文献3)。最近では、アーク放電で作製したBNナノチューブ一本一本からのスペクトルを測定に成功した。その結果、理論予測よりも大きな(太い)BNチューブにおいてバンドギャップエネルギーが六方晶BNよりも小さくなっていることを明らかにした(文献4)。また、熱処理によってもBNナノチューブが生成できることを見つけており(文献5)、作製方法の違いによるBNナノチューブの構造や物性の違いも興味深い。ナノチューブのようなナノ材料の構造および電子構造を明らかにすることができるのは、電子顕微鏡法に立脚した電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy: EELS)しかない。
研究目的:
本研究の目的は、われわれがこれまで開発してきた透過型高分解能EELS電子顕微鏡の性能(検出効率、空間分解能)を向上させ、最近見出されたBNナノチューブについて以下のことを明らかにすることである。
研究計画 :
【平成 11 年度】
【平成 12 年度】
これまでに、ヘリシティーや奇数員環というナノチューブ特有の構造は、実験的に明らかにされ広く認識されている。また、それに伴う特徴的な物性が理論的に予測され大きく期待されている。しかし、それらの特徴的な物性が実験的に明らかにされた例は非常に少ない。われわれは、これまで開発してきた高エネルギー分解能EELS電子顕微鏡を一部改造することによって性能を向上させ、ヘリシティーや奇数員環というナノチューブ特有の構造に起因した物性を明らかにしたい。また、本研究領域の他の研究グループとの連携を強め、新規物質が合成および発見された場合は、透過型高分解能EELS電子顕微鏡の特徴を生かし、新規物質の電子構造を明らかにしてゆきたい。
参考文献:
(1) 高分解能エネルギー分析電子顕微鏡の開発−フラレンへの応用−
寺内正己、葛尾竜一、田中通義:日本物理学会誌、vol.50(7), 566-569 (1995).
(2) "Development of High Energy-resolution Electron Energy-loss Spectroscopy Microscope"
M.Terauchi, M.Tanaka, K.Tsuno and M.Ishida:J. Microscopy, vol.194(1), 203-209 (1999).
(3) "High-resolution EELS study of carbon and boron allotropes"
M.Terauchi and M.Tanaka:Journal of Surface Analysis, vol.3(2), 240-247 (1997).
(4) "Electron energy-loss spectroscopy of the electronic structure of boron nitride nanotubes"
M.Terauchi, M.Tanaka, T.Matsumoto and Y.Saito:J. Electron Microscopy, vol.74(4), 319-324 (1998).
(5) "Helical nanotubes of hexagonal boron nitride"
M.Terauchi, M.Tanaka, H.Matsuda M.Takeda and K.Kimura: J. Electron Microscopy, vol.46(1), 75-78 (1997).