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科研費特定領域研究(A)
フラーレン・ナノチューブネットワーク
ニュースレター Vol.2, No.2 (2000) p.1

Professor Hiroshi Kamimura 巻頭言

ミレニアムを迎えての物質科学研究

東京理科大学大学院理学研究科

上村 洸

  近年物質開発の技術も進歩し、いまや人類の望む物質を人工的に作れる時代になりつつある。1970年代に誕生した半導体超格子やグラファイト層間化合物、80年代のAlMnに代表される準結晶やセラミックスを舞台にした銅酸化物高温超伝導体、そして本特定領域研究のテーマ物質であるフラーレン・ナノチューブなどは、新しい人工物質の開発に対する息吹の高まりの中で生まれた物質群である。特に、1985年に正20面体対称・球状のフラーレン分子が発見され、さらに1990年にグラファイト、ダイアモンドに次ぐ新たな炭素結晶相のフラーレン固体が作られて、その科学的衝撃は非常に大きなものがあった。その衝撃のさめやらないうちに、カーボンナノチューブが発見され、「原子→クラスター→固体結晶」という階層構造の物性科学が急速に発展することとなった。

  他方、私どもは今日半導体なしには生活できないほどに半導体の恩恵を受けているが、半導体物質も21世紀の情報化社会に向けて、ヘテロ構造や超格子系からナノメータスケールの極微サイズへと微少化・低次元化しつつある。それと同時に単一電子トンネリングのような極微サイズの物質系での量子現象の研究も盛んになり、超伝導素子や半導体素子を利用した量子コンピューターの実現も遠い夢ではなさそうである。

  このようなデバイス素子のナノスケール化の中で、カーボンナノチューブの登場は、半導体・超伝導物質で独占されてきた物質科学の世界を大きく変えようとしつつあり、その意味で特定領域研究「フラーレン・ナノチューブネットワーク」のスタートはまさにタイムリーといえよう。この領域研究を推進することにより、科学の世紀ともいえる20世紀の最後を飾るに相応しい素晴らしい研究成果が続々出てくることを願っている。最後に、本領域研究の研究者諸氏にとって大変嬉しいニュースが12月9日に公表された。それは、領域代表者の斉藤晋東工大教授と研究項目Aの代表者の一人である斉藤理一郎電通大助教授のお二人が、本年度の日本IBM科学賞を受賞されたことである。このニュースレターを通して、お二人に心からお祝いを申し上げたい。

 

199912