next up previous
Next: グラファイト微結晶での Li の過剰吸着機構 Up: No Title Previous: No Title

はじめに

直径が 1 nm 程度のグラファイト微結晶は、表面に存 在する炭素原子数とシグマ骨格中の炭素原子数が同程 度であり、反応性に富む。この大きさのナノグラファ イト構造は、個体や分子に見られない新しい量子効果 を伴う未知の物性が可能であることが知られている。 藤田等は、理論的にグラファイト微結晶端に局在する 電子状態によって、分子状態や結晶の状態にない機能 をグラファイト微結晶に作る可能性を指摘しその物性 を展開する可能性を示した。

一方グラファイト骨格を直径が 1 nm 程度の円筒上に 丸めたカーボンナノチューブは、グラファイト微結晶 の中で構造を正確に定義できるものと考えられる。カー ボンナノチューブには螺旋指数と呼ばれる構造を与え る 2 つの整数があり、その指数のとりかたによって のみ金属にも半導体にもなり得ることが研究代表者ら によって指摘されていて、活発な研究が続けられてい る。

この 2 つの研究テーマは、純粋に量子効果によって得られるもの であり、グラファイトの電子状態の特殊性を反映したものであると 考えられる。本研究では、グラファイトの電子状態の特殊性を有効 に利用して新機能をそこに見出すことを研究の目的としている。本 研究の特色は、特異な立体的構造を利用して新しい物性を作る点に ある。従来の物性物理では、(1)原子や分子の組成を変えることや、 (2) 既存の物質の超構造を構成することで新しい固体を作り、多く の成功を治めてきた。しかし小数の原子種の立体的な構造から新し い物性を作り出す研究は多くなされていない。本研究は、単一また は数種類の原子が作る立体構造の物性を創造する点に特色があり、 未知の物性探索の意義がある。また表面反応、二次電池への応用等 の近未来に重要な開発対象となっている技術革新に大きな貢献をす る意義をもっている。



Riichiro Saito
1998-12-14