カーボンナノチューブは、1996 年度に レーザー蒸発法の開発によっ て、単層のカーボンナノチューブの半径を制御することが可能になっ た。これによってカーボンナノチューブの研究は物性測定が可能な 段階に至り、益々活発な報告がなされている。Rao らは (Science 275, (1997) 187.) レーザー蒸発法によって得られた単層のカー ボンナノチューブのラマン測定を行い、アームチェア型のカーボン ナノチューブの振動モードを用いて解析した。しかし、実存するカー ボンナノチューブはこのほかに カイラル型のカーボンナノチュー ブがあり、Rao らはカイラル型のカーボンナノチューブの解析をお こなわなかった。我々は、全ての螺旋度のフォノン分散関係を計算 し、カーボンナノチューブのフォノン構造についての知見を得た。 またΓ点での基準振動をもちいてラマン効果の強度を結合分極近似 を用いて計算した。
計算では、カーボンナノチューブの 1 次元構造を反映して、入射 光と散乱光の偏光を平行 (VV 配位) と 垂直 (VH 配位) の 2つの 場合について考慮し計算を行った。おもな結果を列挙すると、(1) ナノチューブの音速は、縦波、ねじれ波, 横波の順で速いことがわ かった。ここでねじれ波とは円筒系のカーボンナノチューブをねじ りながら進む波である。最も遅い横波が 2 重に縮重しているので、 この 1 次元物質には、4 つの 音響モードが存在する。(2) ナノチュー ブの 低振動数ラマンモード (500cm-1 以下)の振動数は、半 径のみに依存し螺旋度には依存しない。したがって振動数から直接 半径を推定することができる。(3)ナノチューブの 高振動数ラマン モード (1590-1 付近)の振動数は基本的にグラファイトのラ マンモードを折り返したモードである。この振動数もわずかながら 半径の依存性がある。(4)ナノチューブの 中間振動数ラマンモード (500-1250-1)の振動数は、無限に長いナノチューブの場合強 度を得ることができなかった。しかし有限の長さにすると強度が現 れることから、これらのモードは有限のサイズの効果であると考え られる。(5) 角度依存性を求めてみることによって、実験から直接 ラマンモードの対称性を求めることができる。これはとくに高振動 数ラマンモードの分離に有効である。
これらの結果は、Phys. Rev. B に発表される予定である。(1998 年 2 月 15 日号) [2]。この内容に関して 米国ケンタッ キーでの workshop (7 月) と フランス国ナントでの joint workshop (10 月) で招待講演を行った。MIT Dresselhaus 教授と の共同で カーボンナノチューブの本 (Imperial College Press 社) の原稿を 12 月 末に脱稿して出版社に送った。1998 年度中に出版 の運びである [3] 。