新学術領域研究(研究領域提案型)原子層科学とは?
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)
研究領域名: 原子層科学
領域代表: 齋藤 理一郎(東北大学・大学院理学研究科・教授)
研究期間: 平成25~29年度
参考資料:
- 領域計画書
- 中間報告書(280頁、英語版 もあり)Download はここから
- 中間審査資料(ヒアリング資料)
- 日本物理学会欧文誌(JPSJ) 原子層科学特集号 ”Recent Progress in Science of Atomic Layers”
- 平成27年度科学研究費補助金(新学術領域研究(研究領域提案型))に係 る中間・事後評価について [ 文部科学省 web site ]
本領域の目的
本領域の目的は、グラフェン(グラファイトの1原子層)を中心として、「原子層が創る科学」を探索する新しい研究領域「原子層科学」の創成である。初の「単原子層の物質」であるグラフェンは、従来の半導体物質を凌駕する著しい性質をもつ。各国で大きなプロジェクトが始動するなど、原子層科学の有用性は世界の認めるところである。本物質群に関して我が国の学術水準を向上・強化することは、炭素科学において長年世界をリードしてきた日本にとって急務の課題である。
研究目標
炭素の1原子層であるグラフェン、また六方晶窒化ホウ素 h-BN、二硫化モリブデン MoS2 原子層などとの原子層複合系(以下原子層と表記)において、 (1) 原子層の合成法の確立(化学、工学)、(2) 原子層固有の物性の探求(物理、工学)、(3)原子層デバイスへの応用(工学、物理)、(4)原子層電子状態の理論の構築(物理、化学)、 の4つの分野を有機的に連携させ、総合的探求を行うことが目標である。本横断的プロジェクトに より原子層科学を創成し、新たな学理と産業の創出を目指す。
学術的な背景
1950年代から、日本は炭素材料研究において常に世界をリードしてきた。1970 年代の炭素繊維合成技術は、現在ボーイング787の機体材料に採用され開花した。1980年代のグラファイト層間化合物(GIC)の研究は、 今日の Li イオン電池の産業の基盤を作った。化学においても炭素原子同士を繋ぐ技術であるクロスカップリングは 精密炭素材料の産業を創出・牽引した。1985 年に C60 分子、1991 年にカーボンナノチュ ーブ、 2003 年にグラフェンの発見と、ナノカーボン(10 億分の 1m の大きさの 炭素材料)が科学の世界に大きなインパクトを与えた。ナノカーボン研究においても、理論・実験ともに日本の活躍は世界の中で著しい。 現在ナノチューブの大量合成や本格応用は日本が中国とともに推進している。しかしグラフェンや他の原子層物質研究は、合成法ですら試行錯誤・激烈な競争下にある。 新規原子層複合系も視野にいれ、 統一した研究領域を創成し、学術水準の向上・強化に大きく貢献、新たな産業へ繋ぐ必要がある。
本研究領域の内容
本研究領域は4つの計画研究で構成する。各計画研究の目標を以下に示す。2年目、4年目に公募研究(各2年間、計264,000千円)を採択する。
A01合成 | 原子層複合系の新規合成手法(複数)を確立し、用途に合わせた原子層を作製する。特に大面積化、高品質化、複合原子層の合成法を実用レベルまで高める。 |
A02物性 | 原子層構造の新規物性探索。特に、原子層の加工・制御法を確立し、本物質の特異な電子(質量が0の電子)状態がもたらす新規物性を探索・解明する。 |
A03応用 | 原子層デバイスのプロセス技術を開発・展開する。六方晶窒化ホウ素原子層との複合原子層の作製技術を用いて積層構造の制御と高性能デバイスを実現する。 |
A04理論 | 原子層系の接合構造・層端構造の理論設計、第一原理計算による電子状態評価を行い、新規物性の提案を行う。原子層物理における理論体系を構築する。 |
期待される成果と意義
本研究領域において期待される成果と意義は以下のとおりである。(1) 本研究領域は、物理学、化学、工学などの既存の学問分野の枠を超えた融合領域の創成を目指すものである。異分野間の研究の連携が期待できる。
(2) 本研究領域のメンバーは、各分野を代表する研究者から構成されている。このような精通した研究者間の共同研究を通じて、【本領域の内容】で示した新たな大きな発展が期待できる。
(3) グラフェンを中心とした基礎研究が、新規原子層物質を含む原子層科学に大きく展開することが期待できる。その帰結として新たな産業を生み社会に還元が可能である。
(4) 諸外国、EUなどがグラフェン研究に対し、日本のグラフェンを中心として研究基盤ができるので、対外的な競争に十分対抗できる。
本研究領域の基本戦略
基本的な研究項目は、(1)グラフェンの試料合成法確立、(2)合成試料の物性評価と新物性探索、(3)合成試料によるデバイス作製、(4)原子層科学の理論的体系を構築、の4点である。計画の時間的流れと連携を下記概念図で示す。平成25年度:平成25年度は、(1)本研究に用いる試料を合成する装置を導入、初期合成を行う。とくに合成においては、SiCを高温熱処理する方法、酸化グラフェンを還元する方法、CVD(化学気相合成)法、ナノチューブの内側の空間で有機分子を重合する方法、有機合成的にビルドアップ合成する方法によってグラフェン(リボン)を作製。それぞれの合成試料の評価を行う。(2)既存の試料や初期試料の物性測定ならびに物性測定装置やデバイス作製装置の設計を行う。(3)複合原子層の理論的設計を行い提案する。
平成26年度以降:平成26年度は、物性に重点をおき、適した物性測定環境を整備する。物性測定結果を理論に問う。合成は、大面積化、低欠陥試料の条件を探す。BN原子層も合成する。平成27年度は、応用に重点をおき、物性測定された試料でデバイスを作る環境を実現する。理論は、試料評価の解析、物性測定の解析、新規物性の提案を行うなど、1年目から他の班と連携して進める。平成28年度・平成29年度は、領域の目標の達成を目指す。グラフェンが中心の原子層にBN原子層を重ねるなど、複合デバイスの製作や、プロセス技術の確立、新物性の発見および理論的探究、などを実現する。
研究目標、達成目標
この研究領域を4つの大きな計画研究に分け、計画研究間の連絡を密にとり目標を達成する。以下に計画研究の具体的な達成目標を設定した。
合成 | グラフェン(GR)の合成手法を確立。大面積(10cm(CVD法)ウェハーサイズ(SiC法))、低欠陥の良質試料作製。2層GR、GRリボンの化学合成。 |
物性 | 新規輸送特性の探索。複合原子層の新規物性の探索。光および磁気に対する応答・物性の探索。GR高次構造におけるスピン物性・超伝導の探索。 |
応用 | 良質透明電極の作製、h-BN複合原子膜の作製と物性班と協力して試料評価。、大面積実用デバイスの作製。高速デバイス(1THz遮断周波数)の実現。 |
理論 | 試料輸送特性の評価と設計、擬スピン(電子状態を記述する量)に依存する物性の開拓、複合原子層の設計と評価。磁気特性の予想と評価。 |
総括班 | 公募研究の採択。博士研究員の採用。重点項目のサポート。各班の有機的連携強化。国際会議開催、国際共同研究の推進。新規原子層の柔軟で迅速な対応。 |
キーワード
グラフェン、BN、MoS2、複合原子層、試料合成、電子デバイス
研究期間
平成25年度-29年度