「量子物理学」(培風館) に関する質問と答え


「量子物理学」(培風館) の質問と答え

この本に関して、寄せられた質問 とその答えを掲載します。時間の都合上対応が遅れる場合がありますが、 御勘弁下さい。

Q. P.1 に「物質は、103 種類の原子を組み合わせて作られる」 と書いてあります。知り合いの研究者から1988 年に聞いたのです が、原子は、109 個確認されているそうです。108 番目のものが公 認されていないようです。いまは、公認されているのかどうかわか りません。名前は、1988 年現在では、ついていなかったようです。 104 番目以降の元素は、中性子や他の重い粒子で別の元素を衝撃す ることによって、人工的につくり出せる物です。ランタノイドと同 じ人工的な物です。104 が 超ウランという名前であるという噂を 聞いたことがあります。原子は、103 個 ではなくて、109 個だと 思います。
A. 重イオンどうしをぶつけて新しい原子を作る試みは現在で もなされています。1995 年現在論文で報告されているものは、 117-8 個あります。でも名前をどうつけるかでもめているという記 事が物理学会の会誌にありました。いずれも、有限の寿命をもつ不 安定な原子であります。教科書を書く時にも数をどうしようか考え たのですが、倍風館の物理学辞典を含め多くの周期表が103 の Lr までを示していますので、この値を採用しました。そこが気になっ たものですから、ちょっと細工をしまして、「物質は」という主語 をつけました。少なくても、104 番目以降の原子で物質を作った例 はないと思います。自然界に存在するのは、92 番目のウランです から、物質はの主語にすると92種類の原子を組み合わせて作られる とすべきでしょうが、5f 軌道を占有する Lr までは、物質中で作 ることが可能です。理科年表 95 によりますと、IUPAC (International Union of Pure and Applied Chemistry) が 1993 年に勧告した原子量の報告 (理科年表 p.434) によると、109 まで あります。しかし依然として周期表(p.437)には、依然として103 迄表示されています。
Q: P.9, 図1.4の下の図は、出て来る電子の最大エネルギ−に対して そのようなグラフになるべき?
A: ν_0 の立ち上がり方の関数の一般形はファウラー・プロットΦ(x) と呼ばれる関数(例えば、倍風館・物理学辞典参照)ですが、これの 関数の x=0 のまわりで展開いたしますと1次の項がございます。物 質によって状況は変わりますが、ν_0 で立ち上がる様子を概念的に 表したものと御理解頂ければ幸いに存じます。
Q: P.11, (1.12)式は正しくない。相対論的効果を入れ ないと(1.13)式は出て来ない?
A: (1.12) 式から (1.13) 式を導出することはできます。すこし式の 変形が大変ですが、以下の様にします。(1.13) 第2式より ここで は、sinφ を求め、第1式の cosφ=(1-sinφ)^{1/2} に代入します。 結果の式に 第3式 を v^2 = に変形した式を入れ、平方根をとりま す。Δλがλの 1次微小量として、Δω=ω'-ωも1次までとりますと、 (1.13) 式を得ることができます。(1.13) 式の相対論の補正した式 は、(1.12) の第3式を相対論でのエネルギーの保存の式を得ます。 クライン仁科の式はさらに、スピンと電磁場との相互作用を考慮し たものです。
Q: P.19-21にかけてのリュ−ドベリ定数の定義をリュ−ドベリエネルギ− と混同しているのではないか?
A: 私が理解していることは、リュ−ドベリ定数は分光学では波数単位 で用いていますが、これをエネルギー単位に換算すれば、1 Ry リュ −ドベリになると理解しています。例題 2.2 はこの意味でだしま した。
A: 図2.1および2.2の干渉波形は、間違って単スリットの干渉 図形が描かれているのではないですか。複スリットの場合は、ピー クn=0とn=1の間の距離が、ピークn=1とn=2の間の距離と等しいはず です。しかるに図2.1および2.2の干渉波形では、ピークn=0とn=1の 間の距離が、ピークn=1とn=2の間の距離の1.5倍になっており、単 スリットの干渉図形のように見えます。
Q: そうですね等間隔では無ければいけません。今度の印刷の 時に直すように致します。図2.1 と 図2.2 は free hand で書いた ものであり概念的なものと御理解下さいませ。正しい図は、演習問 題に示しました。その図のようにピークが必ずしも出ない場合がご ざいます。
Q: P.33 3.6行列 の次の行に、p=-ih\frac{d}{dx}とあります が、物理量と演算子を=で結んでしまってよいのでしょうか? 小生 は、去年の"化学結合と構造"の授業で、"エネルギーE とハミルト ニアンを=で結んではダメだよ。"と田中(勝)先生に教わりました。 P.67の(6.21)と(6.22)式の間の行も同じです。P.26の(3.8)では、 →で結んであるのに...
A: 御指摘の部分の左辺はいずれも物理量ではなく、演算子と して扱っています。ただし、P.26の(3.8) では (2.11) を参照して いますので、(2.11) の p は、物理量と演算子との対応を意識して →で結んでいます。演算子=物理量でない指摘は常に正しいです。 この教科書では、誤解がない範囲内で p や x の場合には、物理量 と演算子を同じ記号を用いています。
Q: 私は 分子軌道(バンド計算)を行いたいのですが、既存の 計算プログラムを利用して行いたいのですが、ライセンスフリーで 利用できるものはないのでしょうか? 本には、分子計算の方法はほ ぼ確立されていて、多くは自由に使えるように公開されていると (ページ126)記載されていますが、どのような所に問い合わせれば 良いのか、ご存知であれば教えて下さい。
A: 東大や名大の大型計算機センターに多くの software が登 録されていまして、その簡単なマニュアルも容易されています。東 大には、FLAPW のライブラリが浅野先生によって登録されています。 (私は利用していません。) もし計算機利用のための予算がとれま すのであれば、東大や名大の大型計算機センターに account を申 請し、しかる後にマニュアル(登録者には無料)を申請できます。ま たこれには審査がありますが、分子研(岡崎)の共同利用の申請をす れば、10 時間なら比較的簡単に認められると思います。これは無 料ですが、結果を報告する義務があります。

もしちょっと良い workstation がありまして、そこで計算をした いのであれば、PW (pseudo potential の plane wave) の方法で、 原子位置も最適化できるプログラムがあります。

camp (p089)

と呼ばれるものです。半導体の場合 pseudo potential は有効な方 法です。これは JCPE (Japan Chemistry Program Exchange, 0298-30-4160) で 2,500 円 (マニュアルを含む)で提供しています。 ただしこれを購入するためには、2,000 円の年会費を払う必要があ ります。私はこの会員になっています。これは私が最近使い始めた ものですが、なかなか良いものだと思います。今後の発展も期待で きます。分子軌道計算のプログラムも JCPE で多く見つけることが できます。

研究室の background にもよりますが、独力で理解しバンド計算ま で行なうのには時間がかかります。大学院生ということですが、理 論だけを行なうのであれば、おおよそ 1 年ぐらいはみておいた方 が良いと思います。しかし、やりがいのある仕事であるとおもいま すのでどうぞ試してみて下さい。また、初期の成果があれば多くの 人との交流によって加速度的に発展しますので、どうぞがんばって ください。

Q: どうも始めまして。私は、東京工芸大学の学生で、XXXX と申 します。先日、斎藤先生の「量子物理学」を購入させて頂きました。 その序文のところで、先生の WWW のアドレスが書かれており、質 問などを受けて頂くとの事なので、ここに登録させて頂きましたが、 私のように学外の者でも質問等を受けて頂けるのでしょうか? 受けて頂けるのなら、よろしくお願いします。
A: 質問を e-mail でお受け致します。もし授業でこの教科書 を使うのであれば、まず担当の先生に質問下さい。その先生が答え られない場合にのみお答えいたします。その場合先生が何と答えた かもあわせてお送り下さいませ。出張等でお返事が送れる場合があ ります。また必ずしもお返事するとはお約束できませんので、御承 知おき下さいませ。
Q: 114ページ20-22行に「どの原子でも一番外側の原子軌道に いる電子は、(中略)。これを価電子と呼ぶ」とありますが、この 説明では、例えば炭素の場合一番外側の原子軌道である2pの2個だ けが価電子であるような誤解を受ける可能性もあります。「(例え ば炭素では2s2pの4個が価電子)」といったふうに、例を注釈につ けてはどうでしょうか。
A: 理化学辞典で価電子の項を見ましたが、どうも定義が物理と化学で 若干違うようです。曖昧ですが、特に支障が無いような感じも致し ます。

例えばグラファイトの場合には、物理の人の考え方で価電子を π バンドにいる電子と考えれば数は 1 個であり、sp2 結合が原子の 結合を決める電子とすれば 3 個であると思います。炭素原子の基 底状態は 2s^2 2p^2 ですので、s と p のエネルギー差を考えます と2p の 2 個だけを価電子と考えても誤りではないように思います。 2s と 2p のエネルギーの差は化学結合の大きさに近いです。 化学結合の状態に関連する言葉であると理解しています。

Q: 114ページに「価電子の数が等しいように元素を並べたも のが、周期律表である」とありますが、この部分と、116ページ脚 注24)の「遷移金属の価電子は、(中略)2個(または1個)である」 という部分を合わせると、遷移金属は価電子数が1個または2個のI 族とII族の列に属するような印象を受けてしまいますが、いかがで しょうか。
A: 遷移金属の並べ方は、価電子によって決まりませんので、 d や f 電子数で並べています。でもこの記述にも例外(例えば Cu) がございます。周期表は原子番号順に電子を原子軌道に占有する順 番(1s, 2s, 2p, 3s, 3p, 4s, 3d, 4p ....) に例外無く並べた場合 の元素の表とでも記述すれば、正しいと思いますが直感的に得られ る感覚はなにもありません。化学者の感覚にもっとも近い言葉が上 のような気が致します。
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rsaito@flex.phys.tohoku.ac.jp