「量子物理学」(培風館) 本の序文


「量子物理学」(培風館) 本の序文

 序   文

この本は電子工学科の 2年後期または 3年前期の学生を対象とした 半年の授業のために書かれた量子物理の教科書である。量子力学の 素養は,電子工学においても必須のものになっている。また我々の 日常の生活においても,半導体やレーザなど量子力学の応用として の電気製品も少なくない。大学の教育内容の増加に伴って,より基 本的な,より普遍的な学問に対する要請が高まり,量子物理を実用 的なレベルで勉強することが社会から望まれつつある。大学を卒業 して社会人になってから量子物理を勉強しようという技術者も少な くない。本書の役割は,年齢を問わず量子力学をはじめて学ぼうと いう人の道標になるこである。道標に出会った時,誰しも感ずる気 持ちは目的に正しく対峙しているという安心と,気持を新たに元気 に行こうという新鮮さを取り戻す感覚であろう。道標から山の全体 の様子を知る由もないが,山に迷うことなくどう進むかを知ること はできよう。量子力学の道を歩きながら,20世紀の科学が歩んでき た道を直観的にでも得られれば幸いである。

本書は,8 章までを半期の授業の標準コースとし, 9〜11 章 (原子・分子・固体)を時間に余裕がある場合の実用コースとした。 量子力学の標準的な教科書で取り上げられる散乱の問題,摂動論な どは本書のテーマに含めず,一貫して電子状態がどのように得られ るかを中心の問題として関連する物理と化学の話題を提供する構成 にした。これは,テーマを厳選し分かりやすく解説するという,本 シリーズの要請に従っている。また,本書のような入門書で「波動 の固有状態」としての原子・分子・固体の電子状態の計算に習熟す ることは,電磁波動工学との類似性を積極的に利用でき,両者の理 解に間接的にではあるが高めるものであると考えている。入門書で は形式的に取り上げがちな9〜11 章の内容を,独習が可能な程 度なレベルで解説したことが本書の特徴であり,量子力学がこの本 で終る学生にとってもきっと役に立つと確信する。

問題の解く段階において,黒板での説明に時間のかかるフーリエ変 換,特殊関数の数学的問題などもできる限り積極的にとり入れ,本 書で内容が閉じているようにした。数学を隠して物理的な内容だけ で話題を提供することもできるが,非常に多くの学生が,数学の細 かいことが書いてある教科書のほうが実用上役に立つ,という感想 に基づいている。このような数学の部分は独習にまかせ,授業で説 明しなくても理解できる程度に解説した。また授業中に、よく話題 にする展望や背景のような話も多く脚注に加えた。脚注の内容は興 味がなければすべてを理解する必要はないが,本書からより興味の 環が広がることを期待している。著者から読者に強く希望したいこ とは,是非本文の式の計算のチェックや論理の展開をノートで追っ ていただきたいことである。これが本書の理解に不可欠であると考 えている。

本教科書に用いられた本文,図,グラフ,絵は全て文書作成ソフト LaTeX で書かれたものである。培風館の要請にしたがった style file も併せて作成した。これによって校正,レイアウト等の手間 が軽減され,本が廉価で提供されることを希望している。図や,グ ラフにおいて,より良いものがあればご紹介頂ければ幸いである。 読者の意見も直接頂ければ,これにまさる幸いはない。コンピュー ターnetwork が進む現在,本書の紹介や読者の意見を WWW (World Wide Web) で見ることができるように考えている。WWW を使える読 者は,電気通信大学・電子工学科のサーバー http://www.ee.uec.ac.jp の中の著者の研究室の home page を探 して頂ければ,そこに本書に関する情報を載せるようにしようと考 えている。読者の御意見をお待ちしている。

本書の作成にあたり,ワープロによる文章の訂正や索引の作成を中 新田美雪さんにお手伝いいただいた。また家内は,最後の文章のチェッ クをしてくれた。また編者の安永先生と山下先生,培風館の松本和 宣氏からいろいろ有益な指摘をいただいた。ここに深く感謝する。

            平成 7 年 6 月 東京 調布 にて

                齋 藤 理 一 郎

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