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科研費特定領域研究(A)
フラーレンナノチューブネットワーク
ニュースレター Vol. 2 No.1 (1999) pp.55-56


 

クラスレ−ト系構造化合物の合成・構造・物性

 

研究代表者 大阪市立大学大学院理学研究科

谷 垣 勝 己

 

[研究目的]

 

アルカリ金属原子などを中心とする科学的に地味なクラスタ関連の基礎研究が、大きく進展する契機となったのは、炭素原子を中心とする多面体を基本とした一連の炭素クラスタであるフラ−レンの発見である。フラ−レンのように比較的大きな数を有する安定なクラスタが合成されるようになって、「原子 → クラスタ/分子 → 固体結晶」 という階層性を特徴とする炭素系ネットワ−ク物質の物性科学分野の新たなる一歩が始まった。フラ−レン関連の研究は、炭素と同族元素である珪素にも興味が広がるきっかけとなり、古くは水の固体結晶で見出されたクラスレ−ト構造を示す珪素系物質であるシリコンクラスレ−トに関する研究を見直す事に繋がり、一連の研究の中から超伝導を示すシリコンクラスレ−ト化合物等が合成されてきている。

本提案は、多面体のネットワ−クを基本して階層構造的に設計される固体結晶の中でも、後者のシリコンクラスレ−ト関連化合物に関する合成および物性測定の研究に関するものである。これまで、シリコンクラスレ−トに関する興味ある物性は、46系固体と総称されるS120およびSi24クラスタが面を共有した場合に作り出される固体結晶のクラスタ内部空間に、アルカリ土類金属元素の中でも特にBaを導入した場合においてのみ観測されている。この場合には、従来報告されていたアルカリ金属をクラスタの内部空間に導入した場合と比較して、内包される原子と骨格となるシリコンネットワ−クを形成するクラスタの間で軌道混成が生じる事により、興味ある物性が発現すると理解されている。このような状況を考えると、シリコンクラスレ−ト化合物に関する研究を将来さらに展開するためには、

(1)46系骨格で内包される原子の種類を変化させる。

(2)骨格を他のネットワークに変化させる 。

という2通りの研究が必要であることが分かる。さらに項目(2)においては、

(2−1)基本となるクラスタの種類を変化させて新しいネットワ−ク、例えば136系固体にする。

(2−2)シリコンを他のIV族原子およびヘテロIV族原子に変化させて新しいネットワ−クに転換する 。

事が考えられる。本研究では、このような研究方向を意図して、フラ−レン研究とともに発展してきたシリコンクラスレート化合物に対して、更なる研究の展開を図る事を目的とする。

 

[研究計画]

 

炭素系クラスタ固体とは異なり、シリコン系クラスタ固体に関する研究は国内外を問わず現在まだかなり数が少ない。そのため、特に合成に関する基礎知識の蓄積が極めて不十分であり、物性を把握するために必要な高品質の試料を合成できる研究者は、かなり限られている状況である。従って、純粋な46系シリコンクラスレ−ト化合物以外のフラ−レン様ネットワ−クに関しては、その合成方法は確立されていない。

 

最近、日本の各省庁における研究プロジェクトでも、炭素系素材の革新という時代の流れを反映して種々の炭素系材料に関する研究が行われている。しかし、炭素以外の元素から構成される多面体を基本とする固体結晶に関して、ヘテロ元素をその基本となる多面体のネットワークに取り込む研究は、重要であるにもかかわらず殆どなされていない。従って、本研究提案で述べたようなクラスタ固体結晶における内包元素の種類の拡張ならびにシリコンを代表とするIV族あるいはIII、V族ヘテロ炭素系元素を含んだフラーレン様ネットワークの転換という研究は、必須である。このような基本的な基礎研究が平行して遂行される事により、フラーレンネットワーク様固体における将来の展望がより開かれるものと確信する。

本研究室では、1996年からこのような炭素系フラ−レンの研究をシリコンクラスレート系化合物に展開してきた。山中等により合成されたBaを導入したシリコンクラスレート化合物以外に、シリコンクラスタケージにCaおよびSrが導入できる可能性を検討した。次いで、シリコンネットワークを他のIV族元素であるゲルマニウムおよび錫に転換できる可能性を研究してきた。

このような研究経過を経て、現在フラレン様シリコンクラスレート化合物に関する研究を、

1.内包元素の他の異元素への拡張

2.クラスレートネットワークの転換

という観点から進展させたいと考えている。

 

本研究は下記の段階を経て遂行する。

[平成11年度]

これまで、蓄積してきた技術および知見をもとにして、46系のシリコンクラスレート化合物で、内包元素として導入される原子と結晶格子内で基本要素となるSi20クラスタを結び付ける特別な部位(6-e)に導入される原子を様々な元素を用いた実験により分類する。合成実験手法としては、これまで用いてきた高周波加熱法を適用する。また、シリコンネットワークを136系クラスレート化合物に変化させた場合に、この分類は46系クラスレート化合物の場合と比較してどのようになるかを明確にしたい。この様な研究と平行して、シリコンクラスレートネットワークを形成する基本クラスタが、シリコン以外の他の原子を導入する事により変化させる事が出来るか否かの可能性を探る。

[平成12年度]

合成した種々のクラスレート化合物の物性を測定する。合成されるクラスレ−ト化合物は、大気中で必ずしも安定なものばかりではない。安定なものであれば、通常の伝導度測定法で物性を把握する事ができるが、不安定なものはどうしても特別な測定法を用いる必要がある。本研究では、種々の測定方法を適用しながら、合成される新物質の電子物性を明確にする。