東北大学反応化学研究所
京谷 隆、富田 彰
1.研究目的USY-ゼオライトには内径1.2 nmのスーパーケージといわれるSi-O骨格で取り囲 まれた空間が存在しており、サイズ的にはC60やC70などのフラーレンをこの中に1つ だけ入れることができる。また、スーパーケージどうしはそれより一回り小さい細孔 により規則的に連結されている。そこで、本研究では下図のようにUSY-ゼオライトの このような規則性空間を鋳型として利用することでフラーレンネットワーク構造の構 築を試みる。
2.研究方法とその特色
Y型ゼオライトのスーパーケージにフラ−レンを挿入しようとした研究はいくつ かあるが [1, 2]、どの場合も満足のいく結果は得られていない。それはゼオライトスーパーケ ージに通じる穴のサイズ(つまり開口径)がフラーレンのサイズより僅かに小さいこ とに起因している。したがって、フラ−レンを予めゼオライトのスーパーケージに充 填しておき、その後さらに炭素を充填することでフラーレンネットワーク構造を構築 することはまず不可能であろう。
われわれはプロピレンを用いた気相炭素化によりゼオライトの細孔に炭素を挿 入し、その後ゼオライトを酸処理によって除去すれば大表面積の多孔質炭素が得られ ることを見い出した [3]。このような炭素が得られたのはゼオライトの細孔内にかなりの程度炭素が充填 されたためである。しかし、この方法ではゼオライトの外表面から炭素が生成するの で、炭素堆積によりゼオライト粒子の外側の細孔から徐々に閉塞していき、細孔内に 炭素を完全に充填することは不可能である。
そこで本研究では、あらかじめ低分子の炭素前駆体や有機高分子などをゼオラ イトの細孔内に充填しておき、それを急激に加熱し前駆体を細孔内で炭素化させる。 それでも充填度が不足の場合には気相炭素化などの方法で炭素をゼオライトの細孔に さらに充填する。このようにしてゼオライトの全ての細孔内に炭素を充填することで 、フラーレンネットワーク構造をゼオライトの細孔内に構築することを試みる。3.研究計画
平成11年度はゼオライトの細孔内に炭素をできるだけ充填することに全力を 注ぐ。具体的にはつぎのような方法で行う。
(1)ナフタレンなどの炭素前駆体をUSY-ゼオライトに飽和吸着させておき、こ れを800 ℃程度の温度まで熱処理することでナフタレンをゼオライト細孔内で炭素化させる。 この際、加熱昇温中に炭素化前のナフタレンがゼオライト細孔外へ飛散するのを防ぐ ため、昇温速度をできるだけ早くする。さらに熱処理を高圧下で行うのも有効である 。
(2)アクリロニトリルなどのモノマーをゼオライトに飽和吸着させ、これを重 合して高分子/ゼオライト複合体を作成する。この複合体を高温処理することでゼオ ライト細孔内の高分子を炭素化する。
(1)と(2)のどちらの場合もプロピレンなどの気相炭素化によりゼオライトの外 表面から炭素をさらに充填する。また、低温酸素プラズマ処理により、ゼオライトの 外表面に堆積した炭素をエッチングし、さらに炭素充填を試みる。
炭素化後、ゼオライトをフッ酸処理で溶解し、生成した炭素を取り出す。炭素 の構造を現有の透過型電子顕微鏡、X線回折装置、吸着装置で調べ、ネットワーク構 造の有無を確かめる。
平成12年度は炭素化条件の最適化をさらに進めるとともに、フラーレンネッ トワーク構造が内包されていると思われるゼオライトの様々な物理化学的特性を調べ る。ゼオライトとフラーレンの相互作用で今までにない特殊な電気・磁気的性質が賦 与される可能性がある。そこで生成したフラーレンネットワーク構造内包ゼオライト の電気・磁気的性質を調べるとともに、その光学的性質も現有の分光装置で調べる。文献
1 G. Sastre, M. L. Cano, A. Corma, H. Garcia, S. Nicolopoulos, J. M. Gonzales-Calbet and M. Vallet-Regi, J. Phys. Chem. B, 101, 10184 (1997).
2 G, Gu, W. Ding, G. Cheng, S. Zhang, Y. Du and S. Yang, Chem. Phys. Lett., 270, 135 (1997).
3 T. Kyotani, T. Nagai, S, Inoue and A. Tomita, Chem. Mater., 9, 609 (1997).