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科研費特定領域研究(A)
フラーレンナノチューブネットワーク
ニュースレター Vol. 2 No.1 (1999) pp.53-54


シリコンクラスレートおよび関連する新規シリコン

ナノネットワークの構築と物性

 

研究代表者 山中 昭司 (広島大学工学部・応用化学講座・教授)

 

1.研究の目的

 気体水和物(ガスハイドレート)と同形のシリコンクラスレート化合物は1965年、フランスのCrosらにより始めて合成されている。Si20, Si24, Si28の多面体ケージの連結により構成されており、ケージ内にはアルカリ金属原子が内包される。シリコンが炭素と同じIV属元素であることや、金属をドープした炭素クラスター、フラーレンとの構造の類似性が注目され、K3C60などの超伝導の発見により、シリコンクラスレートでも超伝導の発現が期待された。しかし、これまで報告されているシリコンクラスレートはどれも超伝導を示さなかった。当研究者は1995年、Zintl相シリサイドを出発物質として、バリウム原子を内包するシリコンクラスレート、(Ba,Na)xSi46の合成に成功し、約4Kで超伝導を示す事を明らかにした。Si-sp3シグマ結合ネットワークからなる物質で始めて発見された超伝導体として注目されている。本研究では、これまでの研究成果を踏まえて、新規シリコンクラスレートの合成を行うと共に、超伝導機構の解明と高温超伝導体の合成を目指す。また、シリコンをベースとする半導体工業への波及効果を視野に入れて、クラスレート構造に限らず、二次元層状シリコンネットワークの開発など、新規なナノネットワークの合成と物質探索を展開する。

 

2.研究計画

2.1. 新規シリコンクラスレートの高圧合成と構造解析

 シリコンクラスレートはこれまで、Zintl相の熱分解により合成されているため、粉体試料しか得られていなかった。当研究者らは、最近、高圧合成に取り組み、新規シリコンクラスレートBa8Si46の合成に成功した。これはシリコンクラスレートでは最も高いTc = 8.0 Kの超伝導臨界温度を示した。高圧合成試料は物性測定に適したバルクである点でも注目できる。本研究では、この他、高温・高圧条件を用いて、新規シリコンクラスレートの合成を試みる。

 

2.2. 三元系シリコンクラスレートの超伝導と機構解明

 シリコンクラスレートのシリコン骨格を遷移金属(T = Ag, Au, Ni, Cu)で置換した三元系シリコンクラスレートBa8TxSi46-x (0x6)が連続固溶体として高圧合成できる。固溶量xに応じて、超伝導物性が変化する。物性物理研究者と共同で超伝導機構の解明を進める。

 

2.3. シリコンクラスレート薄膜合成

 シリコンウエハー上にシリコンクラスレート超伝導膜を作成する。レーザーアブレーションやシリコン基板上での反応蒸着を検討したい。

 

2.4. 新規シリコンナノネットワークの薄膜合成

 シリコン単体では結晶性のネットワークはダイヤモンド構造に限られるが、金属間化合物のZintl相シリサイドに目を転じれば、種々のシリコンネットワークが含まれた結晶が存在する。これらのZintl相を出発物質として、新規シリコンナノネットワークを誘導する。試料の反応性や物性測定、デバイスへの応用を考慮して、合成はシリコン基板上に薄膜化する計画である。本年度は、各種Zintl相エピタキシャル膜の作成を検討する。

 

2.5. シリコン同素体の合成と物性

 シリコンクラスレートにはダイヤモンド構造と異なるSi-sp3ネットワークが含まれる。クラスレートケージから金属原子を取り除くことができれば、このネットワークはダイヤモンド構造のSiより約0.7 eV大きいバンドギャップを有する半導体となることが理論計算により予言されている。図1に示すような物質が合成できれば、ワイドバンドギャップのSi半導体として、工業的利用が期待される。Si46, Si136を合成し、その基礎物性を測定したい。

 


 


図1.金属原子を内包しないシリコンクラスレートSi46の構造

 

 

 

 

参考文献

1. 山中昭司、川路 均、石川満夫、塩谷 優 (1998) シリコンナノネットワークの構築と物性、季刊フラーレン、6(3), 130-144.