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科研費特定領域研究(A)
フラーレン・ナノチューブネットワーク
ニュースレター Vol.2, No.1 (1999) pp.10-11

フェムト秒光電導性AFMで探る
ナノチューブの単一分子光物性

静岡大 電子工学研

坂口 浩司

 

研究目的

  近年の半導体集積化の進歩は著しく、微細加工レベルは100nm以下に達しようとしている。しかしながら更に集積度が上がるとバルクの物性は変化して量子効果が現われるようになり、従来のエレクトロニクスの限界が生じる。従って将来の超高集積化を達成するためには、量子効果を取り入れた従来とは異なる新しい原理で動作するデバイスの出現が期待される。

  量子効果を示す極限ユニットの一つは、分子である。一個の分子の電子物性や光学物性を制御できれば分子を使ったダイオード、トランジスタ、スイッチなどの極限素子、分子エレクトロニクスが実現できる。分子エレクトロニクスを現実化するには、一個の分子やナノ構造体にアクセスして、その中での電子の挙動や応答を理解することが非常に重要なステップとなる。このような極微構造における電子の振る舞いを理解するには、ナノメートルの空間分解能とフェムト秒の時間分解能を持つ測定法の開発と電子物性の測定がキーポイントになると考えられる。そこで本研究では、フェムト秒チタンサファイアレーザーに代表される超高速光パルス技術と走査型プローブ顕微鏡のナノテクノロジーを融合させ、極限時間・空間分解能を持つ新しい走査型プローブ顕微鏡(フェムト秒光電導性AFM)を開発することを目的とする。またこの新しい手法を用いて、単一カーボンナノチューブ分子にアドレスし、一個の分子の導電性や光電導性、励起子物性について明らかにし、分子を用いた新しい機能への道を探る。

 

研究計画

  平成11年度

  フェムト秒レーザーと電導性AFMを組み合わせたナノ空間における超高速現象が観測可能な新しい走査型プローブ顕微鏡、フェムト秒二光子光電導性AFMを開発する。導電性AFM部分は、微動機構として圧電アクチュエーター(三軸スキャン用)、低ノイズピエゾドライバー、フィードバックコントローラーを組み合わせて制作する。探針としては、金コートSiN導電性カンチレバーを用い、圧電アクチュエーターに取り付け、x,y,zの三軸の微動、並びに光てこ法による試料とチップの距離制御を行う。半透明金電極上に作成した試料と導電性チップ先端にバイアス電圧を印可し、試料に流れる電流を凹凸像と同時に計測する。次にフェムト秒チタンサファイアレーザーと導電性AFMを組み合わせる。現有のフェムト秒チタンサファイアレーザーの二倍波(400nm)の照射により生成する励起子を時間遅延したプローブパルス(基本波、800nm)の照射により自由キャリアに変換させ、発生する二光子電流を導電性AFMにより検出する。二光子光電流をポンプパルスとプローブパルスの遅延時間の関数として測定することにより、ナノメートル領域の電子ダイナミクスに関する情報を得る。また、カンチレバーの二次元スキャンにより、電気特性のマッピングとフェムト秒時間分解動画を得る。予想される検出光電流は、ピコアンペアからフェムトアンペア程度である。そこでレーザー光をチョップし、申請のRFロックインアンプを用いた同期位相検出により微小電流を測定する。

 

平成12年度

カーボンナノチューブの一分子層を半透明金電極に構築する。導電性カンチレバーで一個の分子にアドレスし、開発したフェムト光電導性AFM測定により、量子構造中での電子や励起子の振る舞いや応答を探る。また、一個の分子の電導性や光電導性を調べる。一分子の導電機構はトンネル効果が予想されるため、トンネル障壁の分子構造依存性、距離依存性を明らかにする。また、分子の光励起に基づく分子電線中のπ電子の移動度や応答速度を明らかにする。以上より、分子エレクトロニクスの基礎を築く。