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科研費特定領域研究(A)
フラーレン・ナノチューブネットワーク
ニュースレター Vol.2, No.1 (1999) pp.4-5

単層ナノチューブ合成における金属の役割と精製法

 

研究代表者 末木 啓介 東京都立大学大学院・理学研究科

 

 

 単層ナノチューブを合成する時にNi, Pdなどの金属元素が触媒などの重要な役目を果たしていることが知られている。しかし、現在の研究ではどの様な元素(金属元素)が合成の時にどの様な役割を果たすか具体的には分かっていない。これを知る方法として提案するのが、様々な元素の無担体の放射性同位体をナノチューブ合成用の原料に含ませて、アーク放電法などにより単層ナノチューブの合成条件でススを作り、どの元素がどの様な場所に分布するかを調べる方法である。放射性同位体を無担体で扱うことによって、原子数にして1010個程度の不純物として取り扱われ、放射性同位体が全体の生成条件に影響を及ぼすことはない。しかし、その化学的挙動はそれ自身の性質に大きく依存している。この性質を利用することによって様々な元素がある一定の条件下でどの様な振る舞いを行うかをトレースすることが可能となる。従って、単層ナノチューブを作るときにどの金属元素が触媒として作用するのかなどが分かるはずである。これは、今までに触媒としてまだ使われていない金属元素を新たに見いだす可能性を示している。また、金属フラーレンが合成される系と単層ナノチューブが合成される系を比較することにも可能であり、炭素のフラーレン・ナノチューブネットワークの生成過程に関する総合的な知見を得ることも可能である。

 また、生成した素材を原子炉を用いて中性子放射化することによって金属元素を放射性同位体にすることが出来る。これをトレーサーとして用いることによってその金属を定量的に取り扱うことを可能にしている。単層ナノチューブの合成過程から精製分離までの様々な研究でその触媒としての金属の挙動を具体的にトレースすることが可能となる。特に、精製法に関してはいくつかの報告がなされているが、これらにおける金属元素の分配などをトレースすることが容易に出来るはずである。

 放射性同位体を含む単層ナノチューブの合成と素材の中性子放射化による放射性同位体のトレーサーとしての利用によって、単層ナノチューブの合成における金属元素の役割と精製過程での金属元素の分配を定量的に扱うことが出来る。

 

実験計画

@単層ナノチューブ合成時の金属元素の果たす役割を調べる。

放射性同位体を取り扱えるアーク放電用のジェネレーターを設計して作製する。

これを用いて、グラファイト棒に小さな穴を開けて原料の酸化物とカーボン粉末を入れる際にマルチトレーサーを加える。これで、He中でアーク放電法を行いススを得る。上部で得られるクモの巣状の物質、陰極堆積物、陽極について放射線測定によって放射能を調べて、どの元素がどの位置に分布するのかを調べる。

 

A単層ナノチューブを調べる。

放射性同位体を加えないで@と全く同じ条件でアーク放電を行い、出来た物質についてTEM, SEM, ラマン分光, メスバウアー分光などを用いて分析して、放射性同位体の結果と比較しながら進める。

 

B単層ナノチューブの精製における金属元素の挙動について調べる。

@で合成された放射性同位体を含む試料を用いたり、Aで合成した試料を原子炉で放射化したりして得られた、放射性金属を含む試料について現在までに開発されている精製法などを検討する。この際に金属元素の挙動をトレースすることによって金属の除去などの基礎データにする。