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科研費特定領域研究(A)
フラーレン・ナノチューブネットワーク
ニュースレター Vol.2, No.3 (2000) p.33

シリコンクラスレート化合物の高圧合成と物性

 

広島大学工学部 山中昭司・福岡 宏・E. A. Reny

 

先に筆者ら[1]は、Baを内包したシリコンクラスレート化合物Ba6Na2Si46を合成し、この化合物がSi-sp3ネットワークを有する物質として、最初の超伝導体となることを報告した[2]。この合成は、三元系Zintl相BaNa2Si4の熱分解によって行われており、粉末試料しか得られていなかったが、高圧合成により、新規シリコンクラスレート化合物Ba8S46をバルク相で得る事に成功し、さらに、超伝導臨界温度(Tc)も8.0 Kまで、上昇することを見出した[3]。このクラスレート化合物ではすべてのシリコンケージにBaが含まれている図1Baを内包する別のシリコンクラスレートは我々の発見よりも先にCordier[4]により合成されている。遷移金属を含む三元系クラスレートBa8TxSi46-x (T = Ag, Au, Ni, Cu, Pt, Pd; x»6)で、原料を組成比に混合し、高温で溶融するだけで合成できる。しかし、これらの三元系シリコンクラスレートは超伝導体にはならなかった。

筆者ら[5]は、一連の三元系シリコンクラスレートBa8TxSi46-x (T = Ag, Au, Ni, Cu,; x£6)を高圧を用いることにより、広い組成域で、全率固溶体として合成することに成功した。これらの固溶体の格子定数は固溶量に応じて、連続的に変化する。また、x < 3において、すべて超伝導を示した。Tcx の増加と共に減少した。遷移金属はシリコンネットワークのSiを置換して、Siのネットワークを切断するだけでなく、電子のアクセプターとして作用しており、フェルミ面の電子密度を低下させることが超伝導破壊の原因であると考えられる。

ゲルマニウムクラスレート化合物の存在も以前から知られている。Baを内包するゲルマニウムクラスレート化合物Ba8Ge43も存在する。この化合物の合成は高圧を必要とせず、BaとGeを組成比に混合して溶融するだけで得られる半導体であり、超伝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図1 Ba8Si46の構造

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図2 Ba24Ge100の構造

 

導は示さない。この化合では、電子はネットワークのGe欠損部分に隣接するGe原子に、孤立電子対として局在するため、半導体となると考えられる。高圧を用いることにより、欠損のないBa8Ge46の合成を試みたが、6GPa程度では、合成できなかった。

Baを内包するゲルマニウムクラスレート化合物の別の合成ルートとして、Ba6Na2Si46の合成と同様に、Zintl相BaNa2Ge4を出発物質として、Naを部分的に除くことにより、ゲルマニウムクラスレート化合物の合成を試みたが、BaGe4が得られた。この化合物は、BaとGeを組成比に混合して、溶融することでも合成できる。アーク溶融法により、単結晶が合成できたので、その構造解析を行った。BaNa2Si4の熱分解では、シリコンクラスレートが得られているので、BaGe4Zintl相からクラスレート構造への中間体的な構造を有することを期待したが、その構造は図2に示すように、正確な組成はBa24Ge100であり、Baを内包するゲルマニウム12面体Ba@Ge20が面を共有して連結した新しいクラスレート構造であることがわかった[6]

Ba24Ge100の発見に引き続き、同形のシリコンクラスレート化合物Ba24Si100は、高圧合成により、得られることが分かった[7]。単結晶は得られていないが、X線Rietveld解析により、同形であることを確認している。Ba8Si46800℃、3GPaの条件で合成されたのに対して、Ba24Si100800℃、1.5GPaで得られBa24Si100, Ba24Ge100の空間群はP4132(またはP432であり、4回ラセン軸を含み、キラルな構造を有する点で興味が持たれる。同形のK6Sn25, Ba8In4Ge21, K6Bi2Sn23が知られており[8,9]、バンド計算も報告されている。筆者らが合成したBa24Si100は金属伝導を示したが、2 Kの低温まで、超伝導体にはならなかった。表1に、これまで報告のあるシリコンおよびゲルマニウムクラスレート化合物をまとめて示す。

 

 

1. シリコンおよびゲルマニウムクラスレート化合物一覧______________________________________________________

                 Si clathrate                                  Ge clathrate

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Type I       MxSi46 (M = Na, K, Rb)               MxGe46 (M = K, Rb)

                 (Ba, M)xSi46 (M = Na, K)*

                 Ba8Si46*                                      Ba8Ge43             

                 Ba8TxSi46-x (T = Ag, Au, Ni, Cu; 0£ x£6)*

                 IxSi46-y                                        I8Ge43.3I2.7

Type II      MxSi136 (M = Na, Cs)                  NaxGe136            

Type III     Ba24Si100                                    Ba24Ge100

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      *超伝導体

      下線を付した化合物は高圧合成による

 

 

 ダイヤモンド型Siを高圧処理すると白色スズ型構造相転移し、Siは4配位から6配位に変わる。この他、Zintl相BaSi2, CaSi2, SrSi2の高圧相転移古くから研究されており、Zintl相に含まれるシリコンナノネットワーク(副格子)が様々に高圧転移を受ける。これらのSiネットワークの転移は、極端な高圧を必要とせず、マイルドな高圧条件で興味ある化合物が合成できる点に特徴がある筆者らは最近、アルカリ金属やアルカリ土類金属だけでなく、電気陰性な、ハロゲン原子であるヨウ素をBaの代わりに内包したシリコンクラスレート化合物IxSi46-yの高圧合成にも成功し[10]。高圧合成装置(図3)はシリコンナノネットワークの研究に威力を発揮している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3(a)面体加圧合成装置

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3(b) 高圧合成に用いる反応容器の断面図

(パイロフィライトは一辺が20mmの立方体)

 

 

 

参考文献

1. S. Yamanaka, H. Horie, H. Nakano, and M. Ishikawa, Fullerene Sci.Tech., 3, 21 (1995)

2. H. Kawaji, H. Horie, S. Yamanaka, and M. Ishikawa, Phys. Rev. Lett.. 74, 1427 (1995).

3. S. Yamanaka, E. Enishi, T. Yasukawa, H. Fukuoka, Inorg. Chem., 39, 56-58.

4. G. Cordier, P. Woll, J. Less-Common Met., 169, 291 (1991).

5. Y. Nozue, G. Hosaka, E. Enishi, and S. Yamanaka Molecular Cryst. Liquid Cryst., in press.

6. H. Fukuoka, S. Yamanaka, H. Abe, K. Yoza, L. Haming, J. Solid State Chem., in press.

7. H. Fukuoka, K. Ueno, and S. Yamanaka, J. Organometal., submitted.

8. T. F. Fässler, C. Kronseder, Z. Anorg. Allg. Chem.,.624, 561 (1998).

9. T. F. Fässler, Z. Anorg. Allg. Chem., 624, 569 (1998).

10. E. Reny, H. Fukuoka, S. Yamanaka, 18th Fullerene General Symp., Jan 13-14, Okazaki (2000) 2B08.