研究代表者は、1991年にカーボンナノチューブの研究当初から今日 に至るまで理論的な研究発表を行い、微力ではあるがこの分野の大 きな発展に貢献してきた。カーボンナノチューブの取り巻く研究は、 共鳴ラマン効果、輸送現象、磁場効果、冷陰極、気体吸蔵効果など の応用を考慮したものに移りつつある。本研究の目的は、ナノチュー ブ構造への量子効果が最も顕著である立体構造を理論的に設計し、 その構造のもつ機能を計算によって示すことである。本研究の特色 は、特異な立体的構造を利用して新しい物性を作る点にある。本研 究は、単一または数種類の原子が作る立体構造の物性を創造する点 に特色があり、未知の物性探索の意義がある。本研究の中心となる 物質のフラーレン・カーボンチューブの研究は、世界中で行なわれ ているが、研究代表者は常に最先端の研究成果を報告してきた。本 研究に対し、今後の実験の理論的なサポートと実験の指針が強く期 待されている。
図: いろいろの螺旋度のカーボンナノチューブとキャップ。(a) アー
ムチェアナノチューブ, (b) ジグザグナノチューブ, (c) カイラル
ナノチューブ, (c) ではキャップの説明のため、片方のキャップ少
し離している。カーボンナノチューブの螺旋度に依存した物性探索
が研究の対象である。
研究計画 :
【平成 11 年度】平成 11 年度は、 カーボンナノチューブの輸送現象における、不純物と磁場の効果を 中心に以下のことを行なう。
【平成 12 年度】平成 12 年度は、平成 11 年 度までの成果を踏まえ、実験サイドから要望のある研究対象に応え て、STM/STS の計算、ナノチューブの電子銃としての理論的計算、 また水素吸蔵の可能性について理論的に計算を行なう。
研究分野の進歩に対して流動的に対処できるような体制を作りたい。
ネットワークを中心とする計算物理及び化学の世界が急速に発展し
ていることから、本研究では特異な立体構造に対する理論的な物性
予測をより高い信頼度でよりわかりやすい形で実現し、その成果を
広く公開するとともに、実験グループとの密接な協力のもとに理論
的な物質探索の研究に貢献したい。
参考文献: 以下に代表的な本のみ紹介する。
(1) ``Physical Properties of Carbon Nanotube'', R. Saito,
G. Dresselhaus and M. S. Dresselhaus, Imperial College Press
(1998).
(2) ``カーボンナノチューブの基礎'' 齋藤 弥八、坂東 俊治 著、
コロナ社 (1998).
(3) ``Science of Fullerenes and Carbon Nanotubes'',
M. S. Dresselhaus, G. Dresselhaus and P. C. Eklund, Academic
Press, (1995).
(4) ``Carbon Nanotubes : Preparation and Properties'', eds
T. W. Ebbesen, CRC Press (1997).
(5) ``Special Issue of Carbon Nanotubes'', Carbon 33, No. 7
(1995).
(6) ``カ−ボンナノチュ−ブの挑戦'',
飯島 澄男 著、岩波書店、(1999). (ISBN 4000065661)