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科研費特定領域研究(A)
フラーレンナノチューブネットワーク
ニュースレター No.2 (2000) pp.33-34

金属内包ヘテロフラーレン

新潟大大学院自然科学研究科 赤阪 健

 

 

 

 最近のフラーレン化学において、空フラーレンと比較して異なる物理的化学的性質を有するフラーレンの創製に興味が持たれ、これらの目的に合致した次の二つフラーレン類が検討されています。一つは空フラーレンの炭素ケージ内に1つあるいは複数個の金属原子を閉じ込めた金属内包フラーレンです。もう一つは、空フラーレンのケージ上の炭素原子を1つあるいは複数個のヘテロ原子で置換したヘテロフラーレンです。ランタン原子を内包したフラーレン、La@C82 (1)La2@C80 (2)、に代表されるランタニド金属内包フラーレンがあり、これらの電子的特性や反応性は空フラーレンと比べて著しく異なることが見い出されています1)。これらの特徴は、希ガス内包フラーレン2)とは異なり、金属原子から炭素ケージへの電子移動に由来します。一方、一つの炭素原子がヘテロ原子で置換されたヘテロフラーレンとして、C59NC69Nの誘導体が知られています3)。これらは最初相当するカチオンとしてその存在が同定され、C59NC69Nラジカルは反応性に富み相当するC59NH (3)C69NHや各々の二量体 (4)として単離されました。これらの新規なフラーレン類も、C60に代表される空フラーレンと大きく異なった物理的、化学的特性を有することが明かにされています。

 私どもは最近、空フラーレン、金属内包フラーレン及びヘテロフラーレンに続く第4のフラーレンとして、金属内包フラーレンのケージ上の炭素原子をヘテロ原子で置換した新規な金属内包ヘテロフラーレン合成の可能性について検討し、興味ある金属内包ヘテロアザフラーレンカチオン、La@C81N+及びLa2@C79N+(5)、の生成を確認しました4)

  金属内包ヘテロフラーレンカチオンの合成の第一段階として、金属内包フラーレン、La@C82 (1)及びLa2@C80 (2)とベンジルアジドとの反応を行い付加体の単離しました。第二段階では、この付加体の高速原子衝突(FAB)質量分析において、生成したイオンの質量を測定し、その結果、ランタン内包アザフラーレンカチオン、La@C81N+及びLa2@C79N+ (5)、の分子イオンピークの検出に成功しました。この結果は、15N窒素原子でラベルしたベンジルアジドを用いた同位体実験によって支持されます。

 この第4のフラーレンである金属内包ヘテロフラーレンは、理論計算の結果、これまでの3つのフラーレン類にはない特異な性質を有することが明かとなりました。これまでに合成されているアザフラーレンは、ケージ炭素上にスピンが存在するため、2量体 (C59N)2あるいはC59NRの形でしか安定に存在していません。一方、ランタン内包アザフラーレン(La@C81NLa2@C79N)の場合には金属が内包されることにより安定化され、炭素ケージ上にラジカルが存在しないため、単量体として単離しうる可能性が示されました。現在、ランタン内包アザフラーレンの単離・構造決定・物性測定を目的として、その前駆体の大量合成にチャレンジしています。この新しいタイプのフラーレンは、今までの空フラーレンや金属内包フラーレンになかった全く新しい物性を示してくれることを確信しています。

 

 

 

(1)                                                                                            

(2)

 

 


 


(2)                                                                                             (4)

 

 


 

 


                                 (5)

 

 

1) a) Nagase, S.; Kobayashi, K.; Akasaka, T. Bull. Chem. Soc. Jpn. 1996, 69, 2139. b) Nagase, S.; Kobayashi, K.; Akasaka, T. J. Comput. Chem, 1998, 19, 232.

2) Saunders, M.; Cross, R. J.; Jimenez-Vazquez, H. A.; Shimshi, R.; Khong, A. Science, 1996, 271, 1693.

3)   a) Hummelen, J. C.; Knight, B.; Pavlovich, J.; Gonzalez, R.; Wudl, F. Science, 1995, 269, 1554. b) Lamparth, I.; Nuber, B.; Schick, G.; Skiebe, A.; Groeser, T.; Hirsch, A. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1995, 34, 2257. c) Nuber, B.; Hirsch, A. J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1996, 1421. d) Prassides, K.; Keshavarz-K, M.; Hummelen, J. -C.; Andreoni, W.; Giannozzi, P.; Beer, E.; Bellavia, C.; Cristofolini, L.; Gonzalez, R.; Lappas, A.; Murata, Y.; Malecki, M.; Srdanov, V.; Wudl, F.Science, 1996, 271, 1833. e) Hasharoni, K.; Bellavia-Lund, C.; Keshavarz-K., M.; Srdanov, G.; Wudl, F. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 11128; references cited therein.

4)   T. Akasaka, S. Okubo, T. Wakahara, K. Kobayashi, S. Nagase, M. Kako, Y. Nakadaira, T. Kato, K. Yamamoto, Y. Kitayama, and K. Matsuura, Chem. Lett., 1999, 945.