多層および単層カーボンナノチューブ試料
名城大・理工 安 藤 義 則
JST-ICORP 坂東俊治、趙 新洛
我々は、本特定領域研究の試料作製グループとして、1年間ナノチューブ試料の作製の研究を遂行して参りました。その結果、現段階で我々の研究室で作製して、皆様に供給することができるカーボンナノチューブ試料の種類と特性を以下に記述しますから、試料をご所望の方は末尾の宛先までご連絡下さい。
1. 多層カーボンナノチューブ (MWNTs)
飯島1)が1991年にカーボンナノチューブを発見した試料は、我々のところで黒鉛棒を直流アーク放電で蒸発してフラーレンを作製したときの副産物である陰極堆積物にほかなりません。それ以来我々は、アーク蒸発で種々の条件のもとに多層カーボンナノチューブ(MWNTs)を作製してきています。雰囲気ガスとしては、HeあるいはArなどの不活性ガスよりもCH4のような水素原子を含むガスの中の方が良質のMWNTsが作製できることを明らかにしてきました。最終的には、H2ガスの中で作製した2) MWNTsがナノ粒子などの不純物の共存も少なく、それを除去して精製することも容易であることを見いだしました。Fig. 1にH2ガス60Torr中で作製して、その後、空気中で赤外線照射して500℃に30分間保持して精製したMWNTsのスポンジ状集合体の表面SEM写真を示します3)。個々のMWNTsのTEM写真によりますと、グラファイトの層が規則正しく並んだ結晶性の高いものができていることが確認できます。さらに、内側のチューブの直径は大変細く、細いものでは0.4-0.5nmとC60の直径0.7nmよりさらに細いものができています。このようにH2ガス中で作製した、中心の穴の細い、高い結晶性のMWNTsは三重大の斎藤によってnanografiberと名付けられています4)。また、その細い直径に対応するラマン散乱のブリージングモードも500cm-1近傍で確認されています5,6)。このようにMWNTsで単層カーボンナノチューブSWNTs
Fig. 1 MWNTsのSEM写真 Fig. 2自動作製した陰極堆積物の光学写真 側面と断面
と同じようなブリージングモードのラマンシフトが観測されたのは我々の試料が最初です。言い換えれば、H2ガス中のアーク放電で作製した高品質のnanografiberは、中心の穴が1nm以下と細く量子細線としての特徴を持ち、しかもそれが結晶性の高い十枚余のグラファイト層で覆われた弾性の強い材料として得られています。
このスポンジ状の高品質MWNTs集合体のサイズは直径3-4mm、厚さ0.1mm程度ですから体積にすれば約1mm3です。ピンセットで取り出して、X線測定やラマン測定をすることは可能ですが、質量にしたら、0.1mg以下と少ないのが難点です。これは、アーク放電が定常的に持続される間だけしか良質のMWNTsが生成されなく、その放電時間は数十秒と短いため、陰極堆積物として得られる量が限られていることによるものです。
この良質の多層ナノチューブの収量を上げるために、直流アーク放電の陰極を自動送りしてアーク放電が約10分間安定に持続できるようにしました。その際、陰極堆積物が望ましい形で得られるH2ガスの圧力は、不純物の混入の少ない最適条件の場合よりは高く100Torrでした。Fig. 2に作製した陰極堆積物の側面と切断面の光学写真を示します。中心部の直径3-4mmの柔らかい部分に多層カーボンナノチューブとナノ粒子とが混在しています。その質量は、約150mgと前述の高品質の場合に比して、格段に増加しています。しかしながら、その中には直径1μm程度のグラファイト粒子も多く含まれているため、それを精製することはかなり難しく、逆王水などで最終的に精製して得られた膜状物質の収量は現段階では数mgのオーダーです。
2. 単層カーボンナノチューブ (SWNTs)
単層ナノチューブ(SWNTs)は、Fe系の触媒金属を含んだ黒鉛棒を蒸発させて作製できる7)ことはよく知られています。我々は、レーザーとアークの二通りの蒸発源を用いてSWNTsを作製しています。レーザーの場合は、Arガスを流した中にFe-Ni入りの黒鉛棒を置き、YAGのパルスレーザーを照射して作製します。そこで得られるくもの巣状の生成物におけるSWNTsの収率は比較的高い(70%程度)ので、それをHNO3で処理することによって容易に精製することができ、90%以上の濃度のSWNTsを得ることができます。一回の蒸発で作製できる生成量は、最終的に精製した状態で約10mgです。この精製物はもともとは磁性金属触媒を使っているにもかかわらず、磁石に付着しない程度には金属触媒が除去できています。Fig. 3にレーザー法で作製して精製したSWNTsのSEM写真とTEM写真を示します。
Fig. 3 レーザー法で作製し、精製したSWNTsのSEM写真とTEM写真
アーク法で、Fe系の触媒金属を含んだ黒鉛棒を蒸発させたときは、MWNTsの場合とは違って、通常の陰極堆積物の中にSWNTsは含まれていませ。カラーデポジットと呼ばれる陰極先端から少し離れたところの堆積物と、容器すすの中にSWNTsが含まれていることが知られています。そこで、我々は陰極堆積物ができにくく、容器すすが多くできるようにアーク蒸発源を改良しました。二本のアーク電極を対置させるのではなく互いに約30゜の角度をなすように設置し8)、アークの炎が陰極にそって斜めに飛び出すようにしました。我々は、この方法をアークジェット法と呼ぶことにします。アークジェット法を用いますと、Heガス中で数分間の蒸発によって2-3gの綿状の容器すすを得ることができます。
SWNTsを含む綿状のすすのSEM写真の一例をFig. 4に示します。その中のSWNTsの割合は50%程度で、それを精製した最終的なSWNTsの収量は10mgのオーダーです。
References
1)
S. Iijima: Nature, 354(1991), 56.
2)
X. Zhao, M.
Ohkohchi, M. Wang, S. Iijima, T. Ichihashi and Y. Ando: Carbon, 35(1997), 775.
3)
Y. Ando, X.
Zhao and M. Ohkohchi: Jpn. J. Appl. Phys.,
37(1998), L61.
4)
Y. Saito and
S. Uemura: Carbon, 38(2000), 169.
5)
H. Kataura et
al.: CP486 Electronic Properties of Novel
Materials—Science and Technology of Molecular Nanostructures, ed. by H.
Kuzmany et al., 1999 Amer. Inst. Phys., pp.328-332.
6)
X. Zhao and
Y. Ando: Jpn. J. Appl. Phys., 37(1998), 4846.
7)
S. Iijima and
T. Ichihashi: Nature, 363(1993), 603.
8)
Y. Ando, X.
Zhao and S. Iijima: 18th
Fullerene General Symposium (2000), 1A16P.
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Fig. 4アークジェットで作製したSWNTs