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Mew の来た道

役には立ちませんが、Mew の歴史をひもといてみましょう。

もう mh-e はたくさんだ

1993年の秋に WIDE Project の FJPEM の実験に参加しました。そのころ、櫻井 さんが FJPEM を mh-e で利用しやすくするため、mhpem を作りました。mhpem に触発され、1994年の冬は修論の逃避行動を兼ねて mhpem の改良に励みました。

mhpem は暗号メールを自動的に復号化するおしゃれなプログラムでしたが、いく つか問題がありました。大きな問題は、mh-e が簡単に拡張できない柔軟性に欠 けたプログラムだったことです。復号化したメールは、次に読むときは速くなる よう保存したいと思いますが、mh-e を改良するのは難しいのです。mh-e がバー ジョンアップし、mhpem が新しい mh-e で動かなかったとき、著者は切れました。

復号化した PEM を保存したい。MIME も保存したい。どうして、簡単に MIME を 取り扱えるインターフェイスがないのか。なぜ、複数のメールから簡単に引用で きないのか。マークを駆使して面白いことができないなんて。メールの整理が大 変なのはいやだ。もう、mh-e はたくさんだったのです。

mhpem の自動復号機能、mhasync の非同期な scan 機能、ウインドウの大きさを 動的に変更できる GNUS の機能、マークを付けて複数のニュースを取り扱える gnus-mark の機能、VM のようなリファイルの機能、メールのキャッシュ、美し く柔軟性のあるプログラミングスタイル.... さまざま断片が著者の中で1つにま とまり始めました。1994年3月、奈良への引越し前のことでした。

Mew の誕生

1994年4月、本格的に Mew の製作に取り掛かりました。終了を待たなくてよい inc や scan、動的なウインドウ設定、マーク、メールのキャッシュなどは、お 手本があったので早くから実装されていました。

はじめの頃は MIME を MIME モードで表示していました。マルチパートのメール で `SPC' を押すと、Summary モードから MIME モードに移動していたので す。しかし、歌代さんは言いました、「なぜ MIME モードかあるの? Summary だけで十分ではないか」。目から鱗の落ちる思いでした。

このころの大きな障害は、メールの整頓方法と MIME の作成方法でした。

確かに VM のように、ユーザにいちいち Lisp を書かせれば、整頓は簡単になり ます。しかし、ユーザにこまめに設定させること自体が嫌だったのです。「メー ルのヘッダから無限の可能性のある整頓先を模索するのは馬鹿だ。限りのある実 際のフォルダの中から候補を選べばいい」。このアイディアを思いついたときは、 次の朝が来るのが待ち遠しかったものです。リファイル機能は、後に乃村さんに よって強化されました。

複雑な MIME を簡単に作成するにはどうすればよいか? ユーザには作成文法と か MIME の書式などの理解を押しつけるのはあんまりだ。一言説明すれば、だれで も直観的に MIME を作れるようにしたい。この答えをくれたのは門林さんです。 「MIME の構造ってファイルシステムに似ているよね」。そうです、シングルパー トをファイル、マルチパートをディレクトリと考えればよいのです。ファイル操 作はだれにでもできるし、ファイル構造を MIME に変換する仕事は Mew が請け 負います。

PGP との出会い

FJPEM の実装に疑問を感じていた著者は、1994年の初夏 PGP と出会いました。 そのころは PGP 2.5、つまり、MIT が RSAREF を使って、RSA の特許に抵触しな い非商用の PGP を模索していた時期です。PGP 2.6 のリリースによって、Phil と RSADSI は和解しましたが、RSAREF を使っている 2.6 は米国国外への持ち出 しが禁止されています。

しかし、2.3a を基にした 2.6ui の存在を知り、PGP ユーザになりました。PGP を始めて使ったときの感動は忘れられません。本当に計算し尽くされたプログラ ムです。1995年の冬、サンディエゴで開かれた通称 ISOC Security Symposium(NDSS)という国際会議に参加しました。このとき、プロシーディング と共に O'Reilly から発売されてすぐの Simson の PGP という本をもらいまし た。久々に読みふけった傑作中の傑作です。このような理由から、PEM と MIME の統合よりも、PGP と MIME の統合に力を注ぐようになりました。PGP/MIME は 現在実験段階であり、標準化にはまだ時間がかかります。

「暗号化とか署名はマークで表せばいい」というアイディアは、櫻井さんと情報 処理全国大会の論文を書いたときに教えてもらいました。マークならいつでも好 きなときにキャンセルできるという利点を理解するのは少し時間がかかりました けど。

ニュースの統合

1994年秋の WIDE 合宿で Mew の BOF(Birds Of a Feather::井戸端会議)をしま した。この BOF で佐野さんは「メールとニュースの中間がメーリングリストだ よね」という忘れられない言葉を残しました。闇の中で手探り状態だったところ に、一筋の光を見た思いです。Perl 5 が安定してきた現在、ニュースの統合は 間近に迫っています。


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